「なんや、このじめじめは!
生き腐れしそうや」
「先生は、鯖よりも足が早いですからね」
どぐされ師弟が、高温超多湿の町をぶらついている。
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小林 |
「おっ、へちまや」 |
北小岩 |
「このお家の
日よけになっているのでございます」 |
小林 |
「涼を求めた肉体が、
自然に吸い寄せられていくわ」 |
二人は尻小玉を抜かれた阿呆面で、
人の庭に闖入してしまった。
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小林 |
「おいっ、目ん玉おっぴろげて、
360度見まくってみい」 |
北小岩 |
「むんむむむん!」 |
破れたフェンスから入ったので
気づかなかったのだが、
木の門柱では椎茸が栽培され、
家の壁からは根性大根が
何本も顔をのぞかせている。
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北小岩 |
「庭でも多種多様な野菜が
育てられております。
お風呂場にはバナナ、表札からは大豆。
奥の深いお家でございます」 |
「誰ですか、あなた方は」
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小林 |
「いやな、
なかなかご立派なへちまを
見つけたので、
涼をとらせてもらおうと思ってな」 |
「そうですか。
このへちまは食用なんです」
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北小岩 |
「あなたさまのお家だけで、
かなりの食料がまかなえそうですね」 |
「家だけではありませんよ。ほら」
男がシャツを捲り上げると。
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小林&
北小岩 |
「なんと!」 |
腕から何本ものかいわれ大根が
伸びているのであった。
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北小岩 |
「毛穴から生えているではありませんか」
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「そうですよ。毛穴栽培です。
特に肥料の必要な野菜は、
体の余分なものを養分にして育つので、
メタボの人にもお薦めです。
ところであなたは、
日本の食料自給率がどれぐらいか知っていますか」
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北小岩 |
「町の物知りじいさんから、
カロリーベースで
40%がいいところだと
うかがっております」 |
「そうなんですよ。
私はそれを憂えています。
そこでまずは我が家から、
そして己を用いて食料自給率を上げようと思い、
実践しているのです」
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北小岩 |
「毛穴に種を入れるのは、
とてつもなく
大変なことではないのですか」 |
「穴というものは、開発すればかなりのものが
入るようになるのです。
お尻の穴だってそうです。
失敬! それはまた別の話です」
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北小岩 |
「・・・」 |
「マイワイフは、桃や胡桃、アボガドなど、
びっくりするほど大きな種を入れられますよ。
いえ、あなたが想像している穴ではなく、
毛穴にです」
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北小岩 |
「そうでございますか」 |
「それからですね、
食べるものを自分で生産することも
自給率アップに貢献しますが、
輸入作物を食べずに、
食べた気になることも大切なのです」
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小林 |
「どういうこっちゃ?」 |
「今、ご飯をお持ちします」
自給率向上おじさんは、
二人にお茶碗を渡すと、山盛りによそった。
「お米は国産の優等生です。
ご飯との相性ぴったりといえば梅干。
しかし、昨今では梅の輸入量も増大しています。
ではどうするか」
おじさんはズボンのファスナーをおろし、
金玉一個をこんにちわさせた。
「よくご覧ください。
玉毛を剃り、赤チンを塗っています。
ずっと見てると、梅干に見えてく〜る」
催眠術の様相を呈してきた。
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北小岩 |
「わたくし、不覚にも梅干に見えてしまい、
涎が出てまいりました。
ご飯が進みます!」
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弟子は銀しゃりを頬張った。
「そちらの方はどうですか?」
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小林 |
「俺はイカの塩辛がええな」 |
「イカも実は結構輸入されているのです。
これはいかがですか」
指で玉袋と足の付け根の部分をこすると、
先生の鼻前に差し出した。
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小林 |
「うぎょっ!
超ド級のイカ風味や。
とはいえ、食欲は完全に失せたわ」 |
その後おじさんは、
足の裏の臭いをかがせて
そら豆だと言ったりもしたが、
食べた気になるには至らなかった。
しかし、己の体を使ってまで、
食料自給率を上げていこうという
チャレンジングな姿勢。
それは注目に値する気もするし、
まったくどうでもいいような気もする。
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