KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の参百伍・・・白アリ

北小岩 「え〜と、
 確かこのあたりだと思ったのですが」

弟子の北小岩くんがさがしているのは、
旧友の家だった。

北小岩 「ありました!
 押しも押されもせぬ、
 美しきあばらやでございます」

旧友の手紙には、こうしたためられていた。

「『名酒レインボーじんじろ毛』を入手した。
 すぐ舐めに来い」

北小岩 「わたくし、
 全国の日本酒の銘柄を
 くまなく調べたことがございます。
 しかし、
 じんじろ毛にたどりつくことは、
 できませんでした。
 さらにレインボーがついております。
 どのようなお酒なのか、
 わくわくでございます」

胸を躍らせるほどのことではないであろう。
多分読んで字の如く。

旧友 「酷暑の中、律儀に来たな。
 まあ、一杯やろう」

二人は縁側に腰掛けた。
友が手にしている一升瓶に目をやると。

北小岩 「清酒の中に漂っているのは、
 陰毛ではございませんか!」
旧友 「そうだよ」
北小岩 「黒毛、金毛、銀毛、茶毛など、
 七色の毛が入っておりますね。
 それも、女性のものでございましょう!」
旧友 「そうだよ」

やはり、そうであった。

北小岩 「ぜひ一献!
 むっ!
 うわあああああ」

ウハウハな面持ちで身を乗り出すと、
重みに耐え切れず縁側が崩壊。
ダンゴ虫のように転がった。

北小岩 「あいたたた、でございます」
旧友 「白アリにやられてるんだよ。
 築69年だからな。
 地震が起きたら家屋もおしゃかだな」
北小岩 「退治の方に頼んだ方が
 よろしいのではございませんか」

「お呼びですか?」

間髪をいれずに現れた白い作業着姿の男。

旧友 「誰だ、君は?」

「脅かしてすみません。
 私、『白アリころんちょ商事』のものです。
 白アリという言葉を耳にしたので、
 お呼びかと」

北小岩 「ちょうどよかったですね。
 柱に巣食っていて」
白アリ
ころんちょ
商事の人
「家の柱?
 ご存知ないのですか。
 今、白アリで問題になっているのは、
 柱と形状が似たもの」
北小岩 「と申しますと」
白アリ
ころんちょ
商事の人
「ズバリ、おちんちんです」
北小岩 「なんと!」
白アリ
ころんちょ
商事の人
「現在の家屋は、
 白アリ対策も万全になってきています。
 困った白アリたちは、
 おちんちんに場所をうつし、
 食い荒らそうとしているのです」
北小岩 「そんなことをされたらおちんちんは」
白アリ
ころんちょ
商事の人
「しまいに倒れてしまうでしょうね」

北小岩 「そうでございますか」
白アリ
ころんちょ
商事の人
「それだけではありません。
 お尻の穴に
 蟻塚をつくってしまう種もおります」
北小岩 「不便なだけでなく、
 事と次第によっては
 大便をもらしたと
 勘違いされる恐れもございます」

白アリ
ころんちょ
商事の人
「だから私どもの会社が必要なのです。
 ご興味がおありでしたら、
 まずこの契約書にサインを」
北小岩 「はい」

人のよい北小岩くんは、
すかさずサインをしてしまった。

果たして業者の言うことは、
真実なのだろうか。
もし、真の話だとすれば、イチモツにとって、
今まで経験したことがないほどの
危機的状況であることは間違いないであろう。
そうでないことを祈るのみ。

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2010-08-08-SUN

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