「ただいま帰りました。ふう〜」
額に金玉ぐらいはありそうな
大粒の汗を光らせているのは、
弟子の北小岩くんであった。
「ところでブツはどうや」
股座に小粒の金玉を光らせているのは、
師匠の小林先生であった。
「ここにございます」
北小岩くんの左右の手には、
ビールが一缶ずつ握り締められている。
先生宅といえば通常
客人へのもてなしはこぶ茶によっちゃんイカだが、
今日は毎日のマンネリを打破する
特殊なマシンを携えた男が訪れるので、
ビールで歓待することとなった。
もちろん、お金はない。
そこで弟子を酒屋に一時間貸し出し、
猛暑の中を配達にまわり、お駄賃として
ビールを二本もらってきたのであった。
「一本は客へ、一本は俺へ。
おまえは泡を見て目の保養やな」
このような師だけは、
何があっても持ってはいけない。
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北小岩 |
「どんなマシンなのか、
わくわくしております」 |
人のよい弟子は、
ビールのことなど気にしてはいない。
チンチンチ〜ン!
「こんにちわっしょい!」
意味もなく元気な声とともに、
どかどかと踏み込んでくるものがあった。
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小林 |
「待っとったで」 |
北小岩 |
「はじめまして。
わたくし、北小岩と申します。
ゴホッ。
はっ、失礼致しました」 |
「う〜む。
今のせきは、
時速200キロを超えていましたね」
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北小岩 |
「そのマシンはもしかすると」 |
「森羅万象スピード測定器です。
あらゆるものの速度を計れます。
例えば」
男は鞄の中から、みだらな本を取り出すと、
弟子の目の前へ。
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北小岩 |
「むっ、
わたくしの最も好きな角度マン載の
エロ写真集でございます。
不覚にも息子が」 |
スピード測定器は股間に向けられ。
「あなたの勃起速度は、
時速36メートルでした」
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小林 |
「そんなものまで計れるんかい。
なるほどな。
日々の暮らしというものは、
単調で退屈なものとなりやすい。
しかし、そこに速度を導入することで、
日常にちょいと深みが出るわな」 |
先生はエロ本を手に取り、
熟読しつつページを繰る。
「エロ本ページめくり速度、
時速69メートル。
勃起速度、時速12メートル」
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北小岩 |
「先生の屹立スピードは、
わたくしの三分の一でございますね。
不思議でございます。
体積が小さいのですから、
その分速度はもっと速くても。
はっ、
失礼いたしました」 |
先生の形相が般若になっていることに気づき、
自重した。
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北小岩 |
「突然、便意を催してまいりました。
トイレに」 |
計測者は同行し、パンツを下げる速度、
大小便&屁の速度、陰毛が伸びる速度、
紙で尻を拭く速度、肛門の開く速度などを測定した。
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日常生活の中には、様々なスピードが存在している。
せきやくしゃみがびっくりするほど
高速であることは知られたことだが、
例えば便などが時速何キロであるのか、
腹を壊している時には
どれぐらい速度があがるのか。
実際に計ることで、日常の退屈から開放される。
そのような側面があることは、確かであろう。
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