タッタッタッタッタッタッタッタッ
尋常ではない速さでつま先走りをしているのは、
弟子の北小岩くんであった。
よほどの急用があるのかと問われれば、否である。
タッタッタッタッタッタッタッタッ
「向こうから
小股の切れすぎた女性が接近してまいります」
タッタッタッタッタッタッタッタッ
「かわいらしい子犬ちゃんを連れていらっしゃいます」
キキキキキーー
磨り減った草履でブレーキをかけ、犬に話しかける。
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北小岩 |
「お名前は何とおっしゃいますか?」 |
犬 |
「クィーン!」 |
北小岩 |
「クィーンちゃんでございますか」 |
小股の
切れすぎた
女性 |
「違うわよ。
この子は『阿蘇子(あそこ)』って
言うのよ」 |
北小岩 |
「そうでございますか。
触ってもよろしいですか」 |
小股の
切れすぎた
女性 |
「ダメよ。
私の『あそこ』に触らないで!」 |
北小岩 |
「しっ、失礼いたしました!」 |
女性と、女性のあそこが遠ざかっていく。
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北小岩 |
「わたくし不覚にも、
興奮してしまいました。
さて、気を取り直して」 |
タッタッタッタッタッタッタッタッ
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北小岩 |
「あそこにいらっしゃるのは、
町内で一番気が弱いと目されている
弱井気一郎さんではございませんか。
近所のワルガキどもが
弱井さん宅のカキを
盗もうとしております。
しかし、気が弱すぎて
何も言えないのでございますね。
では、わたくしが代弁し」 |
大きく息を吸い込み。
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北小岩 |
「こらっ!
このカキは弱井さんのものですよ。
桃栗三年、マスカキ八年と申します。
君たちのようなマスカキは、
八年後にお出でなさい!!」 |
ワルガキ
ども |
「うわ〜!」 |
支離滅裂な言に圧倒され、逃げていった。
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弱井 |
「ありがとうございます。
『代便』していただき、
ほんとうに助かりました」 |
北小岩 |
「どういたしまして。
とはいえ、その代便という文字は
間違っておりますよ。
むっ、
どうしたことでございましょう。
突然大便意を催してまいりました。
申し訳ございません。
お便所をお貸しいただけますか」 |
弱井 |
「どうぞどうぞ」 |
鬼の形相で駆け込み。
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北小岩 |
「ふう、
危なく粗相するところでございました。
むむっ、いつもより
数倍太く硬い便が
こんにちはをしております。
このままではわたくしの肛門が
崩壊してしまうでしょう。
色も見たことがない黄金色。
はっ、
これはわたくしの便ではございません。
弱井さんの便を代わりに出している。
つまり『代便』しているので
ございます!」
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弱井さんの便は見かけによらず、ご立派だった。
弟子は切れてしまった肛門を
押さえながら出てくると、
病の床に臥せっている
弱井さんの奥さんのか弱き声。
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弱井さんの
奥さん |
「小用を足したいのですが、
トイレに行くのがつらくって。
代わりに出してきてもらえると
助かるのですが」 |
北小岩 |
「それは無理で・・・。
はっ、
突然小便意を催してまいりました」 |
再び便所に駆け込むと。
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北小岩 |
「わたくしのお小水にしては
熱すぎます。
それにここまで黄色がかったことは
ございません。
わたくしは、奥様のお小水を
『代便』しているに違いございません!」
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突如北小岩くんを襲った『代便』という怪現象。
まだまだ世の中には、
科学では解明できていない下のことが数多ある。
これはそのほんの一例に
過ぎないのかもしれませんね。
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