KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の参百参拾壱・・・皺

どうでもよい友、近方より来る。
名字は御苦労。
額には、深く刻まれた皺三本。

北小岩 「御苦労さんは、
 人の三倍
 苦労してらっしゃいますからね」
御苦労 「いや、
 俺はべつに
 苦労だと思ったことはないよ」
小林 「お前が苦労と思わんでも、
 人には苦労にうつるわ。
 落ちていた大量のエロ本を欲張って
 担ぎすぎ肩を脱臼。
 女風呂をのぞこうとして涎を流し、
 地面に落ちたそれを踏んで
 ガラスに頭から突っ込み、
 数十針縫う大怪我」
御苦労 「だからね、
 俺にとってそういうことは
 苦労ではないんだよ」

確かに苦労という言葉は、
まったく当てはまらないであろう。

御苦労 「それより、
 いささか困ったことがあるんだ」
北小岩 「おでこの皺のことでございますか」
御苦労 「そうなんだよ」
小林 「この冬の寒さで、
 アカギレでもできたんか。
 血が出たら、
 ナプキンでもつけとかんかい。
 多い日も御安心や」

この男に有意義な返答を期待するだけ無駄である。

御苦労 「そうじゃないんだ。
 実はな、俺の皺が深いのをいいことに、
 眠っている間に
 利用している奴等がいるんだよ」
北小岩 「これは冗談でございますが、
 とっても小さな人たちが
 ポンプで水を引いて、
 三本ある皺を三コースに見立てて、
 漕ぎ舟でレースを
 しているのではないですか」
御苦労 「そうなんだよ」
北小岩 「なんと!」
御苦労 「世の中には、
 身長が0.1ミリぐらいの奴等が、
 結構いるんだよな。
 そいつらの中から
 漕ぎ自慢の猛者が名乗り出て、
 レースをするんだよ。
 観客も千人単位で集まって、
 大歓声をあげるからうるさくて。
 おまけに、金を賭けてるらしいんだ」
小林 「ほほう」
御苦労 「鏡を使って見たら、
 おでこに公営ギャンブル会場って
 書いてあった。
 俺の皺は会場かい」
北小岩 「ははははは」

ギョロッ!

北小岩 「もっ、申し訳ございません」

御苦労 「まあ、ショバ代ぐらい
 よこせっていうんだよな。
 それはいいとして、
 レースのない時には
 若いカップルが行水に来て、
 中で乳繰り合ってるんだよ」
北小岩 「見ていると興奮したりしますか」
御苦労 「馬鹿にすんなよ。
 でもな、男の悲しい性で、
 思わず鎌首をもたげそうになることが
 あるんだな」
小林 「しょうもねえやっちゃな」
御苦労 「それはともかく、
 クソガキどもが、
 文字通りクソをひってくことがあってな。
 朝起きるとおでこが
 寝糞を漏らしたようで、
 気持ちわりいんだよ」
北小岩 「ははははは」

ギョロッ!

北小岩 「もっ、申し訳ございません」


齢を重ね、様々な体験を積み、
深くなっていくおでこの皺。
しかし、そんな記念碑のような場所で、
極端に小さき者たちに、
レースをされたり乳繰り合ったりされる。
それもまた、
男の人生の1ページなのかもしれませんね。

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2011-02-06-SUN

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