「ついにこの日がきたな」
「手ぐすね引いてお待ちしておりました」
「絶好の日和やな」
「日頃の行いのタマものでございますね」
「よくぞここまで厳しい修行に耐えてきたな」
「努力は決して裏切りません」
「せ〜の!」
グイッ! グイッ!
「イデッ!」
ドタッ! ドタッ!
ゴミの収集所から拾ってきた短パンに
ランニング姿。
ふくらはぎに力こぶを出そうとして足がつり、
その場に倒れこんだのは
先生とその弟子であった。
|
小林 |
「ともかく、
この69キロマラソンに勝利すれば、
賞金69万や」 |
北小岩 |
「それだけのお金があれば、
一生暮らしていけますね。
それに、副賞の『秘密の69』というのも
気になります」 |
小林 |
「もちろん、飛び切りの美女との
69以外に考えられへんな」 |
物欲と性欲に背中を押され、
フルマラソン以上の距離の大会に
出場を決めた師弟。
顔見知りの上位候補には、
1ミリも練習していないとウソをつき、
実は毎日10キロのランニングを
欠かさず続けてきたのである。
二人は逃げ足だけは天下一品なので、
見かけよりはやるかもしれないのだ。
「よ〜い!」
スターターが両手を上げ、股を広げた。
ボスッ!
ムエタイ姿の女性が、
スターターの金玉を蹴り上げるのを合図に、
マラソンはスタートを切った。
|
北小岩 |
「玉がつぶれた音がしましたが、
大丈夫でございましょうか」 |
小林 |
「人の玉金より、
俺たちの賞金のことを考えようや」 |
北小岩 |
「そうでございますね。
このペースメーカーさんに
ぴったりくっついていけば、
おのずと勝利が見えてまいります」 |
ペースメーカーは褌いっちょうなのだが、
次第にゆるみ始め、
仕舞いに完全にとれてしまった。
|
小林 |
「ぶらぶらが気になって、走りづらいな」 |
プ〜!
|
小林 |
「臭え!」 |
油断をした隙に、ペースメーカーとの間に
数人ランナーが入ってしまった。
|
小林 |
「しゃあない、このまま行こうや」 |
しばらくすると、
エナジーチャージ所が見えてきた。
|
小林 |
「長い道のりや、
ここで補給したほうがええな」 |
北小岩 |
「わたくし、
このロシアン饅頭をいただきます」 |
パクッ! ズンズンズン!!
|
北小岩 |
「イチモツが突然元気に!」 |
ビヨヨーン!
|
北小岩 |
「ダメでございます!
これでは走れません!!」
|
ロシアン饅頭とは、
いくつかの中に勃起饅頭が含まれていて、
それに当たってしまうと
ブツが膨張しすぎて
走行不能になってしまうのだ。
北小岩くん、勃起にてリタイア。
|
小林 |
「お前の分もがんばるだけや」 |
そこから数キロ先には、
異常に強い照明がたかれ、
乾燥ガスが噴出している場所があった。
|
小林 |
「う〜、のっ、のどが乾く!」 |
すぐ先に給水所を発見したが、
スポーツドリンク&ロシアンひまし油と
大書されている。
|
小林 |
「北小岩はロシアンパワーにやられた。
だが、確率からいけば、
二人が同じようにぽしゃる可能性は、
かなり低いやろ」 |
乾きは限界に達していた。
|
小林 |
「これや!」 |
一か八かの勝負に出たが、紙コップの中身は。
|
小林 |
「うっ!もっ、もれる〜。
あそこに簡易型便所が!」 |
先生が近づくのと同じ速度で、
便所は遠ざかっていく。
それも死に物狂いで到達した地点から、
スタートの方角に向けて。 |
|
|
先生は指で尻の穴に栓をして
コースを逆戻りしたが、
50メートルほどで力尽きた。
ここに師弟の夢終わる。
|