KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の参百参拾七・・・大会

もぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。

「なんというコクでございましょうか!」

もぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。

「噛めば噛むほど、
 心が10本足になってまいります」

大好物のよっちゃんイカを噛み噛みし、
訳のわからないことをのたまっているのは、
弟子の北小岩くんであった。

「これほど魅力的なイカ香りはないわな」

イカ臭さを漂わせつつ登場したのは、
小林先生であった。

小林 「ところで、俺の分はどこや?」
北小岩 「はっ!
 申し訳ございません。
 つい勢いがついてしまい、
 すべて食べてしまいました」

普段なら自分のことを棚の最上段にあげ、
弟子の不始末にお仕置きをせんばかりの
先生であったが、本日は妙に穏やかである。

小林 「誰にでもあやまちはある」

余裕をかますのであった。

北小岩 「よいことでもございましたか」
小林 「いやな、そこの電信柱に
 ちらしが貼ってあるんやが、
 町内会館で全国顔面大会が
 開催されることになってな」
北小岩 「顔面大会?
 恐ろしげな催しでございますね」
小林 「なに、簡単にいえば
 にらめっこ大会みたいなもんやな。
 顔面を駆使し、
 先に笑ったほうが負けいうこっちゃ。
 優勝すると、
 よっちゃんイカを三年分もらえるんや」
北小岩 「凄いでございます!
 勝算はあるのですか」
小林 「もちろんや。
 この日のために、
 並の男なら悶絶するほどの厳しい修行を
 重ねてきた」
北小岩 「どのような大技を
 身につけたのでございますか」
小林 「見て卒倒するんやないで!」

先生は鼻に神経を集中した。

ぴくんぴくん

小林 「どや!」

鼻の穴が若干大きくなって戻って大きくなってが
繰り返されるだけであった。

北小岩 「そんなことでございますか。
 わたくし、小学校の頃より」

先生の様子を見ると、
般若の形相に変わりつつある。

北小岩 「いえ、見事でございます!
 そのようなことができるのは、
 世界広しと言えども
 先生をおいて他にありません。
 相手はひとたまりもないでしょう」

威風堂々と会場に乗り込んだ。

北小岩 「試合が始まっておりますね。
 むっ!」

弟子の視線の先には、
毛髪が5ミリぐらいのいがぐりおやじが。

北小岩 「頭の毛を自力で
 出したりひっこめたりしております!」

おやじの毛髪は、5ミリの状態から0ミリ、
再び5ミリ、そして0ミリ。
つまりいがぐりとスキンヘッドが
交互に現れるように、
トリックを使わずに毛を出し入れしているのだ。
対戦相手はあまりの異様さにふきだしてしまった。

 
小林 「あの程度なら、俺の方が上やな」

虚勢を張るのであるが。

北小岩 「妙齢の女性も参加されてます。
 ご覧ください!
 女性の鼻の両穴から
 みの虫が巣ごとおりてきて、
 ぶらんぶらん揺れております」


先生は足をつねって我慢しているのであったが、
無駄であった。
猛者たちを紹介すれば枚挙にいとまがない。
各自顔面で勝負しているとは言い難い面もあるが、
かなりの使い手であることだけは確かであろう。

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2011-03-20-SUN

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