ザッザッ
「空気のどこに、
これだけのほこりが
潜んでいるのでございましょうか」
ザッザッザッ
「知らないうちに、
タンスの上などに積もっているのですね」
ザッザッザッザッ
「これがお金ならと、
誰もが考えることでございましょう。
その点わたくしは、
小林秀雄先生の一番弟子でございます。
ですから・・・、やはり考えざるを得ません」
部屋のほこりをはたきながら、
傾聴するに値しないことをほざいているのは、
弟子の北小岩くんであった。
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北小岩 |
「そうです!
わたくしには、貯金箱がございました。
確か、この引き出しの奥に」 |
弟子が取り出した招き猫の貯金箱は、
招いている手がもげていた。
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北小岩 |
「ここにあるのは、
わたくしの全財産と言っても
過言ではございません。
なぜもげているのかわかりませんが、
ともかくもげた部分から
出してみましょう」 |
100万ドルの笑顔で、手のひらにお金をのせると。
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北小岩 |
「一枚、二枚・・・。
変でございます!」 |
再び確かめてみるのだが。
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北小岩 |
「やっぱり二円しかございません。
もしかすると、先生が・・・」 |
小林 |
「なんか呼んだか。
もしかすると、金が足りなくて
俺を犯人と思っとるわけやないやろな。
あっ」 |
コロン
ズボンのポケットから落ちたのは、
招き猫のもげた手だった。
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小林 |
「人生にはいろいろな事がある。
それより、俺はある金もちから
最新の貯金箱の開発を依頼されたんや。
そろそろできた頃やから、
行ってみよか」 |
二人は意味もなく物干し竿にまたがり、
金もち氏の家を訪れた。
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北小岩 |
「ここでございますか。
あまりお金があるようには
見えませんが」 |
小林 |
「この家の男は金持ちでなく、
金玉が餅のように膨らんどる
金餅(きんもち)なんや」 |
北小岩 |
「はあ」
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金餅 |
「こんにちは。
先生のアイデアが形になりましたよ」 |
北小岩 |
「何でございましょうか。
タコ焼きが二つ
置けるようになっておりますね」 |
小林 |
「タコ焼きやないで。
ここに金玉を置くんや」 |
北小岩 |
「なんと!」 |
小林 |
「俺は昔から、
貯金箱に金が貯まらんのは、
金の気持ちよさと
連動しとらんからやと思っとった。
金玉を置いて、500円玉を入れると、
絶妙なほぐし方をしてくれる。
この世のものとは思えない気持ちよさや。
再びそれを味わいたくて、
また500円を投入する。
気が付くと、
ウハウハなほど金が貯まっとると、
そういうわけやな。
さっそく試してみるわ」 |
先生が玉をのせ弟子に五百円を催促するが、
彼は二円しか持ち合わせていなかった。
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小林 |
「ええわ、二円で」
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無理やり投入したのだが。
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小林 |
「なんか、妙に熱くなってきたな。
むっ、煙が出とるやないか!
あち〜〜〜!」 |
玉袋の皮が焼けてくっついてしまい、
そのまま黒焦げになったとさ。めでたしめでたし。
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