KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の参百六拾壱・・・貯金箱

ザッザッ

「空気のどこに、
 これだけのほこりが
 潜んでいるのでございましょうか」

ザッザッザッ

「知らないうちに、
 タンスの上などに積もっているのですね」

ザッザッザッザッ

「これがお金ならと、
 誰もが考えることでございましょう。
 その点わたくしは、
 小林秀雄先生の一番弟子でございます。
 ですから・・・、やはり考えざるを得ません」

部屋のほこりをはたきながら、
傾聴するに値しないことをほざいているのは、
弟子の北小岩くんであった。

北小岩 「そうです!
 わたくしには、貯金箱がございました。
 確か、この引き出しの奥に」

弟子が取り出した招き猫の貯金箱は、
招いている手がもげていた。

北小岩 「ここにあるのは、
 わたくしの全財産と言っても
 過言ではございません。
 なぜもげているのかわかりませんが、
 ともかくもげた部分から
 出してみましょう」

100万ドルの笑顔で、手のひらにお金をのせると。

北小岩 「一枚、二枚・・・。
 変でございます!」

再び確かめてみるのだが。

北小岩 「やっぱり二円しかございません。
 もしかすると、先生が・・・」
小林 「なんか呼んだか。
 もしかすると、金が足りなくて
 俺を犯人と思っとるわけやないやろな。
 あっ」

コロン

ズボンのポケットから落ちたのは、
招き猫のもげた手だった。

小林 「人生にはいろいろな事がある。
 それより、俺はある金もちから
 最新の貯金箱の開発を依頼されたんや。
 そろそろできた頃やから、
 行ってみよか」

二人は意味もなく物干し竿にまたがり、
金もち氏の家を訪れた。

北小岩 「ここでございますか。
 あまりお金があるようには
 見えませんが」
小林 「この家の男は金持ちでなく、
 金玉が餅のように膨らんどる
 金餅(きんもち)なんや」
北小岩 「はあ」

金餅 「こんにちは。
 先生のアイデアが形になりましたよ」
北小岩 「何でございましょうか。
 タコ焼きが二つ
 置けるようになっておりますね」
小林 「タコ焼きやないで。
 ここに金玉を置くんや」
北小岩 「なんと!」
小林 「俺は昔から、
 貯金箱に金が貯まらんのは、
 金の気持ちよさと
 連動しとらんからやと思っとった。

 金玉を置いて、500円玉を入れると、
 絶妙なほぐし方をしてくれる。
 この世のものとは思えない気持ちよさや。
 再びそれを味わいたくて、
 また500円を投入する。
 気が付くと、
 ウハウハなほど金が貯まっとると、
 そういうわけやな。
 さっそく試してみるわ」

先生が玉をのせ弟子に五百円を催促するが、
彼は二円しか持ち合わせていなかった。

小林 「ええわ、二円で」

無理やり投入したのだが。

小林 「なんか、妙に熱くなってきたな。
 むっ、煙が出とるやないか!
 あち〜〜〜!」

玉袋の皮が焼けてくっついてしまい、
そのまま黒焦げになったとさ。めでたしめでたし。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「小林秀雄さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2011-09-04-SUN

BACK
戻る