ジージージー
「もう秋ですが、
まだまだ蝉さんはがんばっているのでございますね」
ガッ
ヒューン
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弟 |
「おにちゃん、まただめだよ」 |
兄 |
「ごめん」 |
弟 |
「やだ〜。え〜ん!」 |
幼い兄弟の兄が蝉を捕ろうとして、しくじった。
見かねた北小岩くんは。
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北小岩 |
「わたくしが、
キャッチしてご覧にいれましょう」 |
弟 |
「ほんと?」 |
北小岩 |
「わたくしも、幼少の頃は
蝉とりの鬼と言われた男。
いきますよ!」 |
ジージージー
ガッ
ヒューン
ジョー
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北小岩 |
「うわ〜!
蝉さんのおしっこが
目に入ってしまいました!」 |
弟 |
「あんた、
ぼくのおにいちゃんよりカスだね」 |
小林 |
「おい、北小岩。
お前なぜ蝉の小便を
目薬のようにさしとるんや」
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北小岩 |
「あっ、先生。
そういうわけではないのですが、
蝉をとらずに不覚をとりました」 |
小林 |
「己の実力通りにしか、
結果はおとずれんということやな。
蝉と言えば隣の隣町に、
独特な種があると聞いておる。
行ってみよか」 |
小さな兄弟の願いをかなえることもなく、
二人は隣の隣町に向かった。
チンチンツクツク エーンエン
チンチンツクツク エーンエン
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北小岩 |
「今まで聴いたことのない
蝉の鳴き声でございますね」 |
小林 |
「ここいらの蝉は20年蝉と言ってな、
土の中に約20年いて、
二十歳の誕生日を迎える一週間前に
地上に出てくる。
二十歳をこえて三日すると死んでしまう」 |
北小岩 |
「ということは」 |
小林 |
「そうや。
二十歳になる前に童貞から脱皮できるか、
過酷な勝負を繰り広げる蝉なんやな」 |
北小岩 |
「男の世界では、
『やらはた』という
恐ろしい言葉がございます。
やらずの二十歳・・・。
つまり童貞のまま
二十歳を迎えてしまうことですね」 |
小林 |
「そうや。
この町の男たちは、
蝉が地中から出てくる時から観察し、
もし、やらはたになってしまった
蝉を見たら、罵声を浴びせ蔑むんや」 |
北小岩 |
「なんと非情なことでございましょう」 |
小林 |
「しかし、蝉を応援する男たちもおる。
やらみそ・・・、
つまりやらずの三十路を迎えた方々や。
そこまでいくと、
自分の事はさておき、
蝉にお前だけはがんばれよ!
と感情移入したくなるらしい」 |
その時だった。
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やらみそ
の男A |
「あっ、彼は
あと三分でやらはたを迎えるぞ。
でも、運よく迎え入れてくれる彼女に
巡り合えた。やったな!」 |
チンチンツクツク ウハウハ
チンチンツクツク ウハウハ
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やらみそ
の男B |
「これで彼も大人の仲間入りだ。
むっ、カラスが飛んできて、
彼を食った!
彼は結局、
やらはたのまま
生を終えてしまった・・・」
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やらみその男たちは、目に涙を浮かべている。
蝉の世界にも『やらはた』はある。
そのことだけは、きちっと肝に銘じたい。
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