「はあはあ」
どこからか荒い息が聞こえる。
「はあはあはあはあ」
声は速度を増しているようだ。
「うう」
声には聞き覚えがある。
「もうだめです!」
艶っぽい場面なのであろうか。
しかし、そんなはずはない。
なぜならば、声の主は弟子の北小岩くんであるからだ。
「先生との約束の時間に間に合いません」
それほど重要なことなのだろうか。
「早く行かないと、
お目当てのエロ本が他の人の手に
渡ってしまうかもしれません」
とるにたらないことであった。
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北小岩 |
「しかし、わたくしは今が
午前11時59分だと思っておりますが、
果たして本当に
午前11時59分なので
ございましょうか」 |
弟子は一つも時計を持っていない。
時間を知りたい時には、
隣の家の柱時計を盗み見るのである。
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北小岩 |
「きっとそうでございます。
お隣さんの時計をチェックしていた時に、
娘さんが下着姿で出てきて、
熱湯を浴びせられてしまいましたので、
正確なところが
わからなかったのでございます。
今は11時30分ぐらいなのでは
ないでしょうか。
もしもし」 |
「はいはい」
そばにいた男に問うてみる。
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北小岩 |
「今が何時か正確なところを
お教えいただけますでしょうか。
あっ、すみません。
時計をお持ちでなかったのですね」 |
「いえ、持ってますよ」
陰毛のような髭を生やした男は、
おもむろにズボンとパンツを下げると、
仰向けに寝転がった。
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北小岩 |
「ポケットから出されたものは、
三角定規でございますね」 |
男は定規の鋭角を天に立て、イチモツをセットした。
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陰毛の
ような
髭を
生やした
男 |
「そうですね。
今はちょうど12時ですね」
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北小岩 |
「むっ!
確かにおちんちんが
日時計になっております。
しかし、
それを信じてよいものでしょうか。
すみません。
今、何時かわかりますでしょうか」 |
通りかかった女性にセカンドオピニオンを求めた。
「ちょっと待ってね」
女性は上着を脱ぎ、ブラを外した。
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北小岩 |
「むむっ!
乳首を中心に、
長針と短針がございます!」 |
乳首を
中心に
長針と
短針が
ある女性 |
「今、ちょうど12時だわね」
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北小岩 |
「・・・」 |
先生との待ち合わせ。
そんなものは、無視したほうがよいであろう。
しかし、この町の個性ある時計については、
記憶にとどめておきたいものである。
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