KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の参百六拾八・・・時計

「はあはあ」

どこからか荒い息が聞こえる。

「はあはあはあはあ」

声は速度を増しているようだ。

「うう」

声には聞き覚えがある。

「もうだめです!」

艶っぽい場面なのであろうか。
しかし、そんなはずはない。
なぜならば、声の主は弟子の北小岩くんであるからだ。

「先生との約束の時間に間に合いません」

それほど重要なことなのだろうか。

「早く行かないと、
 お目当てのエロ本が他の人の手に
 渡ってしまうかもしれません」

とるにたらないことであった。

北小岩 「しかし、わたくしは今が
 午前11時59分だと思っておりますが、
 果たして本当に
 午前11時59分なので
 ございましょうか」

弟子は一つも時計を持っていない。
時間を知りたい時には、
隣の家の柱時計を盗み見るのである。

北小岩 「きっとそうでございます。
 お隣さんの時計をチェックしていた時に、
 娘さんが下着姿で出てきて、
 熱湯を浴びせられてしまいましたので、
 正確なところが
 わからなかったのでございます。
 今は11時30分ぐらいなのでは
 ないでしょうか。
 もしもし」

「はいはい」

そばにいた男に問うてみる。

北小岩 「今が何時か正確なところを
 お教えいただけますでしょうか。
 あっ、すみません。
 時計をお持ちでなかったのですね」

「いえ、持ってますよ」

陰毛のような髭を生やした男は、
おもむろにズボンとパンツを下げると、
仰向けに寝転がった。

北小岩 「ポケットから出されたものは、
 三角定規でございますね」

男は定規の鋭角を天に立て、イチモツをセットした。

陰毛の
ような
髭を
生やした
「そうですね。
 今はちょうど12時ですね」

北小岩 「むっ!
 確かにおちんちんが
 日時計になっております。
 しかし、
 それを信じてよいものでしょうか。
 すみません。
 今、何時かわかりますでしょうか」

通りかかった女性にセカンドオピニオンを求めた。

「ちょっと待ってね」

女性は上着を脱ぎ、ブラを外した。

北小岩 「むむっ!
 乳首を中心に、
 長針と短針がございます!」
乳首を
中心に
長針と
短針が
ある女性
「今、ちょうど12時だわね」

北小岩 「・・・」

先生との待ち合わせ。
そんなものは、無視したほうがよいであろう。
しかし、この町の個性ある時計については、
記憶にとどめておきたいものである。

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2011-10-23-SUN

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