ふがち〜ん ふがち〜ん
「この緩みきったいびきは、
小林秀雄先生でございますね。
師走というのに、まったく走る気配も見せません」
ふわ〜
「怠惰な者に接していたら、
わたくしまで眠くなってしまいました」
ふわ〜〜〜
「あっ!」
ぐきっ
「ふわっ、ふわごがふずれへしまいまひた
(あごがはずれてしまいました)」
世間様は年末で忙しいさなか、
意味もなくアゴをはずしているのは
弟子の北小岩くんであった。
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北小岩 |
「ひょうでごひゃいまひゅ。
えろひょんをくひにひゅっこめひゃ
なひょるかもひれまひぇん
(そうでございます。
エロ本を口に突っ込めば
治るかもしれません)」 |
ガッ
何の根拠もなく、
小林先生のエロ本を口に突っ込んでみる。
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小林 |
「何しとるんや!
俺の宝物を!!」 |
ゴン
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北小岩 |
「げほげほ。痛いでございます。
あっ、先生のアゴヘのキックで、
もとに戻りました」 |
小林 |
「自慢のエロ本に歯形が・・・。
しゃあない。
でもお前、アゴを外して
間抜けな顔をしとるなんて、
いくらなんでも緊張感がなさすぎや。
そや、隣の隣の隣町に、
妙に緊張感のある家があるらしい。
行ってみよか」 |
二人はおまじないのつもりか、
パンツの前方に金という字を書いて、
緊張感のある家に向かった。
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北小岩 |
「むっ、何なのかわかりませんが、
天を衝く塔のようなものが
何本もありますね」 |
小林 |
「油断は禁玉やな」 |
北小岩 |
「すみませ〜ん。
こちらは緊張感に満ちたお宅と
うかがったのですが」 |
緊張感
おやじ |
「そうだ。
例えばお前は、今何がしたい」 |
北小岩 |
「冷えてしまったので、尿がしたいです」 |
緊張感
おやじ |
「じゃあ、あの塔に登れ。
100メートル上空に、便器があるわ」 |
北小岩くんは下腹を強く押されて漏らしそうになり、
仕方なく梯子を登り、塔の最上部を目指した。
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北小岩 |
「ふう。やっと着きました。
うっ、こっ、こんなところで
放尿するのでございますか!
恐るべき緊張感でございます」 |
地上100メートルにあるのは、便器だけ。
塔は風に大きく揺れ、恐ろしさは半端ではない。
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北小岩 |
「今までわたくしが、
何の緊張感もなく放尿していたことが
わかりました。
今後は生きるか死ぬかの覚悟を決めて、
放尿いたします」
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緊張感
おやじ |
「おい」 |
小林 |
「なんや!」 |
緊張感
おやじ |
「お前、先生とか何とか言われて、
エロ本の大家を気取っているらしいな」 |
小林 |
「お前に言われる裏筋はない。
いや、間違った。
お前に言われる筋合はないわ」 |
緊張感
おやじ |
「お前が本気で
エロ本を愛しているのだったら、
あのエロ本塔に登って愛でてこいや!」 |
小林 |
「行ったるわ!」 |
高所がなにより苦手な先生。
ぶるぶる震えながら頂上に着くと、
そこにはエロ本が数冊立てかけてある小さな本棚と、
座布団が一枚あるだけだった。
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小林 |
「確かに俺は、
今まで緊張感なしに
エロ本のページを
繰っていたのかもしれん・・・」
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ほとんどの人は、日々、
それほど緊張なく過ごしていることだろう。
緊張感おやじだけは違う。
しかし、そんな過剰なことが、
本当に必要あるのであろうか。
はなはだ疑問ではある。
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