「わたくしも、
修行に出立せねばならぬ時かもしれません」
腕を組んだついでに、
意味もなく自分の乳首を揉んでいるのは、
弟子の北小岩くんであった。
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北小岩 |
「しかし、僧でもないわたくしに
どのような修行が・・・。
そうでございます。
粗大ごみ広場に、ボロボロの三輪車が
廃棄されておりました。
それを逆に漕いで、
バックで隣の隣の隣の隣町まで行って、
図書館で本を借りてくるのは
いかがでございましょうか」 |
弟子は広場に向かった。
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北小岩 |
「それにしても、
人はいろいろなモノを
つくり続けるのでございますね。
ここにございますのは、
エレクトリック・コケシ・ドールですね」 |
スイッチを入れると、微妙に反応した気もするが、
それは気のせいであろう。
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北小岩 |
「わたくしの修行の友がございました」 |
銀色のマットとスケベ椅子に挟まって、
おんぼろ三輪車はなさけない顔をのぞかせていた。
ぎぎぎぎ
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北小岩 |
「ぎりぎり回るようです。
これから長い旅が
始まるわけでございます」 |
ぎ〜こ〜 ぎ〜こ〜
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北小岩 |
「後ろ向きな男の名を
欲しいままにしております
わたくしでも、
バック行進は難儀でございます」 |
横断歩道で往生し、
高級車に乗ったオヤジから
赤まむしドリンクをかけられたり、
大型犬の巨大な糞を踏み抜いたりしながら、
坂を下れば図書館という地点まで追い込んだ。
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北小岩 |
「急坂です。
油断すると危険でございます。
足に力を込めて、ゆっくりゆっくり。
あっ!」 |
ガラガラガラガラ
すぐに油断してしまった。
ビューン ドン
「何してんのよ!」
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北小岩 |
「申し訳ございません!」 |
坂での転倒は免れたのだが、
そのまま平地をバック走行し、
佇んでいた女性の秘所に
後頭部がめり込む形で止まったのだ。
「ド腐れドスケベ野郎!」
ドゴッ ドタッ
電光石火の回し蹴りが後頭部をとらえ、
半刻ほど夢の中を彷徨った。
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北小岩 |
「そうでございます。
図書館に行かねば」 |
弟子は著作の大海から、
『この町の人図鑑』を借り、再び三輪車に戻った。
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北小岩 |
「不思議な本でございます。
この町の名物人が
紹介されているのですが、
『フンコロガシ人』などというお方が、
本当にいらっしゃるのでしょうか」 |
ゴロンゴロン
「どけどけどけ〜〜〜い!」
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北小岩 |
「うわっ!
本当にいらっしゃいました」
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褌一丁の益荒男が、
運動会の玉ころがし競争のように、
巨大な糞を転がしてきたのだ。
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北小岩 |
「では69ページにある、
尺取虫人と蜜壺蟻人も・・・。
わっ!」 |
電信柱に小便をかけている男たちが二人。
一人のチンチンは尺取虫のように動き、
もう一人の玉は異常にでかく、
蜜壺蟻のように蜜がたまっている気配なのだ。 |
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弟子が修行の旅で得たものは、
想像以上に大きかったようである。
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