グ〜〜〜
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小林 |
「腹がへったな」 |
北小岩 |
「そうでございますね」 |
小林 |
「駅前でいなり寿司屋の
割引券チラシをもらったが」 |
北小岩 |
「写真を見ていると
余計にお腹がすきますね」 |
小林 |
「俺もお前もおいなりさんを
二つずつ持っているものの」 |
北小岩 |
「食べるわけにはいかない
おいなりさんでございますからね」 |
小林 |
「しゃあない」 |
北小岩 |
「行かねばなりませんね」 |
二人はおのおのマイ爪楊枝を持って、家を出た。
どこに向かったのかと言えば。
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女性販売員 |
「いかがですか、
このフカヒレ入りの高級餃子
おいしいですよ。
どうぞ」 |
小林 |
「今、そこで高級寿司を
味わってきたばかりやけどな」 |
北小岩 |
「お腹がパンパンでございます」 |
おいなりさんのチラシを見て、
食べた気になっただけである。
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小林 |
「無理にでもというのなら」 |
北小岩 |
「味見してさしあげることも
可能でございます」 |
師弟が押しかけたのは、
デパートの食品売り場であった。
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小林 |
「贅沢三昧をしてきた俺たちには、
屁のような味やな」 |
北小岩 |
「特筆には値しませんね」 |
その実、こんなにおいしいものは
生まれて初めてと思っているのだ。
「もう、
あなたの顔なんか見るのもいや!
吐き気がするわ!!」
「なにいってやがる。
俺だってお前とは
もう別れようと思ってたんだ。
出てけ!」
突然、喧嘩を始めた夫婦がいる。
出てけと言ってもここは家ではなく、
デパートなのだが。
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女性
販売員 |
「7階であなた方にピッタリの
催しが行われておりますよ。
ぜひどうぞ!」 |
意味がよくわからなかったのだが、
夫婦はエレベーターに押し込まれ7階へ。
意味もなく先生と弟子も乗り込んだ。
「よくいらっしゃいました。
こちらへどうぞ」
うながされるままに進んだ。
「奥様、これをお持ちください」
湯呑みを渡され、熱湯を注がれた。
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奥さん |
「熱い!」 |
旦那 |
「だいじょうぶか!」 |
思わず旦那が湯呑みをつかむと。
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奥さん |
「あれ? 熱くなくなってきたわ」 |
7階の
女の人 |
「これは二人で持つと
熱さがやわらぐ湯呑みなんですね。
ここには、
ご夫婦や恋人が喧嘩した際に
仲直りしていただくためのグッズが、
たくさんあるんです。
仲直りトランポリンもいいですよ」 |
女の人が指を鳴らすと屈強な男たちがあらわれ、
夫婦がペタッと向き合った形にしてバンドで止め、
トランポリンの上に放り投げた。
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夫婦 |
「うわ〜〜〜」
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仲がよかろうが悪かろうが、
ともにバウンドするのみ。
弾みがおさまると、バンドがはずされ。
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7階の
女の人 |
「お帰りにはこの靴をどうぞ」 |
履いてきた靴は処分されており、
かわりにお互いの右足と左足がひとつになった、
言わば二人三脚シューズといったものが
用意されていた。
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旦那 |
「しょうがねえなあ。
これで帰るか。
お前、ちゃんと息をあわせ」 |
ドタ
言い終わらないうちに旦那がこけ、
支えきれずに奥さんもこけた。
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奥さん |
「しょうがないわね。
いち、に、いち、に・・・」
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その場で足踏みし、
息を合わせて二人は帰っていった。
意味もなく突っ立って見ていただけの
先生と弟子は必要ないが、
このような催し物会場は必要であろう。
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