パタパタ
「ごほんごほん」
洒落を言うつもりはないのだが、
先生の御本でごほんごほんしているのは、
弟子の北小岩くんであった。
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北小岩 |
「先生と言えば、
言わずと知れた病気持ち。
いえ、蔵書持ちでございます。
古今東西のあらゆるエロ本、
そして、古今南北のエロ本。
イチモツは貧相ですが、
エロ本のコレクションはご立派です」 |
パタパタ
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北小岩 |
「隅々までお掃除しなくては」 |
ググッ
どわ〜〜〜
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北小岩 |
「うわ〜〜〜!」 |
弟子は崩れたエロ本の下敷きになった。
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小林 |
「帰ったで〜〜〜」 |
シーン
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小林 |
「おかしい。
あれほどの暇人が、
呼びかけに答えんはずがない。
もしや、
一人でいやらしいことをしているのでは」 |
ドドドド
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小林 |
「んっ?
なんやお前、
エロ本の山の中で
エロ本を読んどるのか。
真正のすけべやな」 |
北小岩 |
「そっ、そうではございません。
今わたくしは、
窒息死しそうなのでございます。
しかし、エロ本の山につぶされて
この世を去ったとなれば、
父、母に対して申し訳が立ちません。
ですので、
何とか生きながらえようと
しているところなのです」 |
小林 |
「遭難した弟子を助けるのは、
師の義務や。
待っとれ」 |
先生はエロ本雪崩救助用の
巨大なスコップ(先っぽがげんこつの形で、
人差し指と中指の間から親指が出ている)を
どこからか運んできて、
それを梃子にし弟子を救った。 |
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北小岩 |
「ふう。
助かりました。
あれ?
何かを手につかんでおります。
『お玉様』という本です。
なになに、
五代将軍綱吉の生類憐みの令では、
お犬様が有名ですが、
実はお玉様もありました」 |
小林 |
「そやな。
あまり知られとらんことやが、
犬以上に金玉が大切にされていたんや」 |
北小岩 |
「そうなのでございますか」 |
小林 |
「雛壇をつくり、
赤いじゅうたんを敷き、
その上に金玉を載せるようにしていた。
傷つけるもの、
馬鹿にするものがあったら、
お裁きにより
事と次第によっては生命にかかわった」
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北小岩 |
「今は、ややもすれば
ぶらぶらしている怠け者のように
思われている節もありますが、
そこまでお偉い方だったのでございますね。
持ち主も、敬われたのでございましょう」 |
小林 |
「いや、それはまったく別や。
偉いのは、あくまでも金玉だけや。
持ち主であっても、
金玉を手荒にあつかったり、
イカ臭いままにしとったら、
木馬責めなどの拷問が待っていた」 |
北小岩 |
「木馬責めでございますか・・・。
自分の一部分だけが
尊重されるというのは、
それはそれで辛いものかもしれませんね」 |
歴史では、
表に出ているものはほんの一部であり、
隠されてしまったことの方がはるかに多い。
お玉様は、果たして明るみに出た方がよいのか。
それは、微妙なところである。
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