シトシトシトシト
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北小岩 |
「あと何日で梅雨が終わるのでしょうか」 |
シュシュシュ
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小林 |
「そやな。
今はこのように、雲がスカートとなり、
太陽を隠してしまっとるわけや」 |
シュシュシュ、というのが何の音かと言えば、
先生が画用紙に絵を描いている音なのである。
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北小岩 |
「どうすればよいのでしょうか」 |
小林 |
「そやな」 |
シュシュシュシュシュワ〜
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小林 |
「雲のスカートをめくってみたらどうや」
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北小岩 |
「うわ。
絵に人格が宿るとでも申しましょうか。
雲さんにも太陽さんにも
申し訳がたたないほどの、
エゲツない絵でございますね」
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小林 |
「近頃お前、正直すぎんか」
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北小岩 |
「申し訳ございません。
わたくし、実は先生の絵の
大ファンなのでございます。
そこはかとなく漂ってくる
やさしさとペーソス、
そこから醸し出される
人としての卑しさ、醜さ。
はっ、間違えました!」 |
弟子は先生の絵を
無理に持ち上げようとしたのだが、無理だった。
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小林 |
「まあよいわ。
しかし、はっ、はっ、はくしょ〜ん」
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北小岩 |
「先生、季節の変わり目ですから、
お風邪にはお気をつけ、
ふぁっふぁっふぁくしょ〜ん」
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小林 |
「お互いに気をつけな、はくしょ〜ん!」 |
ササッ
ピタッ
プク〜
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北小岩 |
「うわ。
忍者のように素早いおじいさんが、
先生がくしゃみをした瞬間に、
鼻に特殊ゴムを着けました。
くしゃみにより
ゴムは膨らんだのですが、
その大きさ、形状は
先生のイチモツそのもののようで
ございました」
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通りすがり
の女性 |
「私、見てましたけど、
信じられないぐらい
小さかったですね」
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北小岩 |
「そんなことを言っては先生に、
ふぁくしょ〜ん!」 |
ササッ
ピタッ
プク〜プク〜プク〜
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通りすがり
の女性 |
「うわあ!
あなたのは、ごりっぱね。
惚れ惚れしちゃう!」 |
女性は特殊ゴムをなでなでした。
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北小岩 |
「ゴムですので、
それ以上は大きくなりません」
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最後の弟子の発言は、やや勇み足であろう。
ところで人間ワザとは思えない素早さで、
的確に鼻にゴムを着けていくおじいさん。
この男がいったい何者なのか。
それは謎のままであるが、
はっきり言ってしまえばどうでもいいことであろう。 |