小林 |
「実りの秋になったな」
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北小岩 |
「そうでございますね」
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小林 |
「何か実っとるか」
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北小岩 |
「何も実っておりませんね。
むっ!」 |
先生と散歩をしている、
昼行灯こと北小岩くんの目が光った。
その先にあるのは巨大な糞。
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小林 |
「どうやら、
ただの糞ではないようやな」
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北小岩 |
「そうでございますね。
どてっぱらに何か書いてあります。
ふむふむ。
『便器の汚れに【ベンピカリ】』」
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小林 |
「ようわからんが、
ベンピカリという商品を
広告しているようにも見えるな」
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北小岩 |
「わたくしの友の知人のまた知人の
あまりよく知らない人に、
広告に詳しいらしい人がおります。
聞きにいってみましょうか」
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小林 |
「なんだか心もとないが、
一応行ってみるか」 |
通常なら先生の大したことのないつてを
たどるところだが、
今回は珍しく
弟子の知りあいともいえない人を訪れた。
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北小岩 |
「お忙しいところ
大変申し訳ございません。
先ほど道端の糞さんに、
広告のようなものが
書かれていたのですが、
どういうことでしょうか」
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広告に
詳しい
らしい人 |
「それはまさしく広告ですね。
糞と人間は、
ずっとず〜〜〜と
長い付き合いがあるわけです。
それだけ付き合っていると、
中には人間と
コミュニケーションできる糞も
出てくるんですよ。
その糞たちが
人間のクライアントと交渉し、
自分を媒体として
利益を得るようになったのです」
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北小岩 |
「確かに糞さんに
便器みがき液の広告がついていれば、
美しい連想とはとても言えませんが、
商品に思いを馳せそうな気がいたします」
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小林 |
「糞にとっての報酬は、
どういうものなんや」
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広告に
詳しい
らしい人 |
「高級食材を食ってできた
糞になれるらしいんですよ」
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小林 |
「わけがわかったような
わからんような話やな」 |
プ〜ン
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北小岩 |
「このお部屋は随分、
蚊さんがいらっしゃいますね」
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小林 |
「そやな。
北小岩に止まった。いくで」 |
キーン
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北小岩 |
「ううっ!」 |
蚊は弟子の玉に止まったのだ。
つぶれた蚊をみた先生が。
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小林 |
「普通の模様やない」
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広告に
詳しい
らしい人 |
「顕微鏡でご覧ください」
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小林 |
「むむっ!
身体に紙片のようなものがついとる。
そこに『献血のお願い』と
書かれとる」
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広告に
詳しい
らしい人 |
「皮肉な感じがしますが、
蚊が献血のミクロポスターの
媒体になっているんですね」
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知らない所で、
今までにない広告が増えているらしい。
確かに糞や蚊は、
人間と長い時間をともに過ごしてきたため、
意思の疎通ができるようになっていても
不思議はない。
他にも候補はあまたいるであろう。
今後に注目したい。 |