小林 |
「今年も終わるな」
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北小岩 |
「そうでございますね」
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小林 |
「ええことあったか」
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北小岩 |
「お風呂でおならをしたのです」
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小林 |
「ほほう」
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北小岩 |
「泡が湯面からこんにちはをした刹那、
表面から虹が出たのです」
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小林 |
「なに!
それは吉兆や。
来年はモテるかもしれんで」
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北小岩 |
「そうでございますか」
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小林 |
「生まれてから一度も
モテたことのないお前やが、
今回ばかりは屁の泡が
虹の架け橋になること間違いなしや」
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北小岩 |
「そうでございますか!」
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小林 |
「もし複数の女からモテた場合、
わかってるやろな」
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北小岩 |
「もちろんでございます。
まず先生がお好みの方を
お選びになり、
それからわたくしの番でございます」
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小林 |
「うむ」
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これほど心が貧しい師匠も、珍しいであろう。
最も屁の泡から虹が出たとしても、
モテることとはまったく無関係だと思うが。
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小林 |
「さて、今年の仕事納め、
ぼちぼちいくか」
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北小岩 |
「はい」
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果たして仕事納めとは。
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老人 |
「毎年毎年ありがとうな」
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小林 |
「それほどでもありませんよ。
おい北小岩、そこに落ちとるで」
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北小岩 |
「確かに。
むっ、強烈でございます。
持ち上げただけで、
睾丸がつぶれそうになりました」
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小林 |
「早くこの特殊ビニールに
入れた方がええ」
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実は先生と弟子には年末、
町に落ちている恋の残骸を掃除するという
重要な使命があるのだ。
もちろん恋の残骸は目に見えない。
しかし、師弟はまったくモテないがゆえに、
感じることができるようになったのだ。
北小岩くんが持ち上げたのは、
彼氏が彼女から金玉を蹴られて終わった
恋の残骸であった。
このようなものが落ちた状態で新年を迎えるのは、
非常に危険なことなのだ。
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小林 |
「そこにもあるな」
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北小岩 |
「はい。
涙がいっぱい詰まっております」
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小林 |
「理由はわからんが、
悲しい結末だったんやろな」
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北小岩 |
「先生の後ろにも見えますね。
邪悪なものを感じます。
始末しなければ」
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小林 |
「違うと思うで」
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北小岩 |
「うっ!
先生の腐った屁でございました!!」
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ともかく、恋の残骸の始末は、
誰にでもできるというものではないだろう。
モテな過ぎるがゆえに、
その存在を感じることができる。
こんな二人でも、
町に貢献することもあるのですね。 |