丑三つ時。
小林先生の目がパチッ。
北小岩くんの目がパチッ。 |
小林 |
「今、パチッという音が聞こえたな。
お前もしかしたら、
目が覚めたんやろ」
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北小岩 |
「さすがでございます。
確かにわたくし、
目が覚めております」
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小林 |
「いったん起きると、
なかなか眠れんもんや」
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北小岩 |
「そうでございます。
今から歩けば、
随分遠くまで行けますね」
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小林 |
「出立しよか」
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師弟はそのまま12時間歩き続けた。
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北小岩 |
「日が高いうちに、海に着きましたね」
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小林 |
「ひさしぶりや。砂浜にでも寝転ぶか」
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北小岩 |
「ふわ〜、気持ちいいでございます」
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ザブーン ザブーン ・・・
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小林 |
「むっ!
今何か、聞こえんかったか」
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北小岩 |
「ザブーン ザブーンという音が
聞こえておりました」
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小林 |
「まだまだ修行が足りんな。
耳の穴おっぴろげてみい」
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ザブーン ザブーン アハーン
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小林 |
「どや!」
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北小岩 |
「はい!
波のピストン運動に合わせ、
よがり声のようなものが
聞こえてまいりました」
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小林 |
「やはりあの噂はほんとうだったか」
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北小岩 |
「と申しますと?」
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小林 |
「世の中では今この時も、
様々なものが交わっとる」
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北小岩 |
「きっとそうでございましょうね」
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小林 |
「以前、知り合いの
なんでも博士が言っとった。
それによると、
交わっとるのは動物だけやない」
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北小岩 |
「もしや!」
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小林 |
「そのもしやや。
海も他の海と交わり、
気持ちのええ思いをしとる。
事によっては、
海の赤ちゃんが生まれることもある。
海だけやない。
土や砂、石や空気なども、
交わりの疑いがある」
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北小岩 |
「わたくし、
あそこの土の声も聞いてみます!」
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ダッシュした弟子が、土に耳をつけた。
ツチ ツチ イク〜ン
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北小岩 |
「やはり、土もそうでありました。
確信はなかったのですが、
つちとちつは言葉が
とても似ておりますので、
何か関係があるのではと
思っておりました」
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弟子の最後の言はともかく、
交わっていないように思われていたものが交わり、
時に子どもまでつくっていることは、
注目に値するかもしれない。 |