先生と弟子が、鋭い眼光で歩いている。
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北小岩 |
「あそこの塀の上に
光っているものがございます」
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小林 |
「あの光り方は、10円やないな」
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北小岩 |
「高貴な光でございます」
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小林 |
「となると、1円玉でもないな」
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北小岩 |
「50円か100円か
500円ではないでしょうか」
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小林 |
「常に所持金が2円ずつしかない
俺たちにとって、500円は巨額な財や。
ダッシュや!」
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北小岩 |
「かしこまりました」
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ダダダッ
スッ
ブニュッ
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北小岩 |
「あっ、財が消えました」
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「はははは!
ひっかかりやがった」
塀の向こうから糞ガキの声がする。
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北小岩 |
「この糞ガキが!
でございます」
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「人の事を糞呼ばわりできるのか。
お前の足を見てみろ!」
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北小岩 |
「あっ、
糞を踏み抜いてしまっております!」
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「お前の方が糞だろ!」
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北小岩 |
「確かに」
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糞ガキは塀の上のお金で人をおびきよせ、
おびきよせられたヤツは
当然視線が上にいっているため、
糞をセットしておいて踏ませたのだ。
なかなかの兵法家であると、言わざるを得ない。
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小林 |
「もうええ、こっちこい。
それにしても近頃、
褌をしめている若いヤツが
やたらと多い気がするんやが」
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北小岩 |
「褌を一匹見たら、
三十匹はいると思えといった
趣でございますね」
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小林 |
「ゴキブリみたいやな。
おい、そこの若いの。
お前なんで、
ズボンもはかずに褌で歩いてるんや」
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褌男 |
「今、褌の効用が見なおされてるんだよ」
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小林 |
「どういうこっちゃ」
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褌男 |
「こないだ彼女と初めて
一夜を過ごしたんだけどさ。
彼女が遊びに来た時は、
まだ恋人までいってなかったんだよ」
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北小岩 |
「それでどうしたのでございますか」
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褌男 |
「褌に、
『俺の事を愛しているなら、
この褌を引っ張ってくれ』って書いて、
彼女の前に仁王立ちしたんだ」
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北小岩 |
「引っ張ったのでございますか」
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褌男 |
「そうだよ。
引っ張られるとほどけるように、
紐をゆるく結んでいたから、
そのままベッドインさ」
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小林&
北小岩 |
「・・・」
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平安時代、和歌に気持ちを託し、
オマンチックな関係を結んだ
日本人ならではの趣のある行為という気もするが、
単にアホらしいという気もしないでもないから
不思議だ。 |