北小岩 |
「先生の憧れの方は、
まだ泳いでらっしゃるのですか」
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小林 |
「そやろな」
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北小岩 |
「可憐なマーメイドで
いらっしゃいますね」
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小林 |
「間違いないわな」
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先生が憧れている可憐なマーメイドとは、
いったい誰のことであろうか。
それは謙虚で優しく美しい。
そしてカエル泳ぎが得意な女性。
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北小岩 |
「週に何度もプールに
通っていらっしゃいましたよね」
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小林 |
「俺たちも通ったな」
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北小岩 |
「あの時、下手を打たなければ」
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先生と弟子は水とたわむれる女性を
一目見るために、何度もプールを訪れたのだ。
訪れたといっても、先生の所持金が2円。
弟子の所持金が2円。
中に入ることはできず、
2階部分の窓によじ登り、
目をハートにして眺めていたのである。
しかし、二人とも
身を乗り出し過ぎたために室内に落ち、
先生は1コースの飛び込み台の角に、
弟子は2コースのスタート台の角に、
玉をしこたまぶつけてのびてしまったのだ。
ドクターが呼ばれ
ズボンとパンツを同時におろされ、
そのままのかっこうで二人は担架で運ばれた。
結局のぞきをしていて落ちたも
同然なわけなので、そこにいた女性たちからは
汚らわしいもののように見られたのであるが、
そんな時でさえ憧れの人はただ一人、
心配そうな顔をしてくれた。
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小林 |
「俺たちは出禁になったんやな。
もともとプールに入る資金が
ないんやから、出禁にしなくとも
同じやと思うんやが」
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「きゃ〜っ!」
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小林 |
「今の悲鳴聞いたか」
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北小岩 |
「はい」
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小林 |
「俺が恋焦がれている人の声や。
急ぐんや!」
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師弟は全力で駆けつけ。
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小林 |
「どうされましたか!」
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憧れ
の人 |
「スリがバッグをとろうとして」
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小林 |
「何! 許せん!!」
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憧れ
の人 |
「ペットのすっぽんのぽんちゃんが」
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小林 |
「ともかくここでお待ちください!」
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先生は額に青筋を立て、スリを追った。
数百メートル先を走っていたスリは。
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スリ |
「いてててっ!
すろうとしたら、
突然バッグからすっぽんが顔を出し、
俺の指に噛みつきやがった!
あまりの痛さに尿意が」
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スリは指をすっぽんに噛まれたまま
小便しようとした。
すっぽんはイチモツを見ると、
カメ目のライバルに
テリトリーを侵犯されたと思い、
指を離れありったけの力で噛みついた。
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スリ |
「うぎぇ〜〜〜!」
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小林 |
「おいスリ!
んっ?」
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スリに追いついた先生であったが、
なぜこの男がイチモツを咥えられて
のたうち回っているのか理解できなかった。
ともかくすっぽんのぽんちゃんが
先生の憧れの人を守り、成敗したのである。
めでたしめでたし。 |