小林 |
「怪談といえば夏やな」
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北小岩 |
「そうでございますね」
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小林 |
「だがそこに登場する者たちが、
冬になにもしていないわけは
ないな」
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北小岩 |
「先生のように
夏冬問わず自分を
慰めているわけでは
ございませんね」
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小林 |
「それは俺にとって
ウォームアップのようなものや」
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北小岩 |
「ウォームアップばかりで、
試合にのぞんだことが
いまだかつてございません」
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小林 |
「へん」
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先生は右手の親指を中指と人差し指の間から出し、
そのままの形で弟子のほっぺたをつねった。
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北小岩 |
「痛いでございます。
その上、その形は
気分が悪いでございます」
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にやっ。
先生は今までだと
般若の形相になるだけだったが、
有効な実力行使にでたようだ。
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小林 |
「ところでなぜ
冬にはあまり
怪談をしないと思う?」
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北小岩 |
「夏だと怪談の怖さに震えますが、
冬はすでに寒さに
震えているからでは
ないでしょうか」
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小林 |
「ほほう」
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北小岩 |
「その上におちんちんが
恐怖で縮んだら、
ペットボトルの蓋ぐらいに
なってしまうからでは
ないでしょうか」
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小林 |
「お前、
俺に喧嘩売っとるんかい」
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北小岩 |
「めっそうもございません」
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小林 |
「まあええ。
怪談より快感の方が好きな
俺たちや。
話は変わるが、
俺の友人に妖怪に
詳しい画家がおる。
そいつのところで
冬の妖怪について、
聞こうやないか」
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町には春一番が吹きましたが、
師弟の心はずっと冬なのですね。
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北小岩 |
「こんにちは。
冬の妖怪について
おうかがいしたいのですが」
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妖怪
画家 |
「それはかなり、
恐ろしいものぞろいだぞ」
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北小岩 |
「ぶるぶるぶる。
どのように恐ろしいので
ございますか」
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妖怪
画家 |
「描くから待ってろ」
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さらさらさら
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北小岩 |
「むっ! これは」
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弟子は戸惑いの表情をみせた。
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北小岩 |
「怖いのだか、
怖くないのだか、
よくわかりません」
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弟子が手渡された紙には、
ろくろ首が描かれているのだが。
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妖怪
画家 |
「これは
妖怪『女湯ろくろ首』だな」
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北小岩 |
「確かに首が
信じられないほど
長く伸びて、
女湯をのぞいておりますね」
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妖怪
画家 |
「こいつも恐ろしいな」
さらさらさら
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北小岩 |
「女性のような
気がいたしますが、
今度は首ではなく
手が伸びております」
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妖怪
画家 |
「妖怪『竿ずらし』といって、
男が眠る丑三つ時に現れ、
右曲がりのちんちんは左に、
左曲がりのちんちんは右に
ずらしてしまうんだよ」
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北小岩 |
「あまり怖くはありませんが、
そんなことを毎日されたら、
おちんちんの調子が
悪くなりますね」
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そんな妖怪ほんとにいるのだろうか。
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