KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の六百七拾・・・脱皮

ミ〜ン ミン ミン

北小岩 「蝉の季節でございますね」

ミ〜ン ミン ミン

北小岩 「わたくしも、
 幼き頃は虫取り網を片手に、
 野山を駆けまわったもので
 ございます」

ジ〜 ジ〜

北小岩 「アブラゼミも
 負けじと奏でております。
 ジ〜ジ〜と言っておりますが。
 まさか自慰をしているのでは
 ございませんね」
小林 「何真昼間から、
 でっかい声で
 自慰なんて言っとるんや」
北小岩 「あっ、先生。
 わたくし、アブラゼミが
 自慰をしているのかと」
小林 「くそ暑いのにお前、
 くだらなさだけは
 師を追い越したかもしれんな」
北小岩 「それより先生。
 わたくし蝉の声を聴いておりますと、
 童心にかえるのでございます」
小林 「ほほう」
北小岩 「久しぶりに蝉取りに
 興じたくなってまいりました」

弟子は落ちていた棒に、
落ちていたビニール袋を括り付け、
虫取り網を作った。
先生も弟子も所持金が2円なので、
網を買うことはできない。

北小岩 「実はわたくし、
 昔は蝉取り王と
 呼ばれておりました」
小林 「その腕前、
 見せてもらおうやないか」

北小岩くんは木に近づいた。

北小岩 「蝉と目を合わせるのが
 コツでございます」

これ以上大きくならないほど目を見開き、
蝉の下に移動した刹那。

バッ しゃ〜〜〜

北小岩 「うわ!
 蝉のおしっこが
 もろに目に
 入ってしまいました!」
小林 「天然の目薬をさしたとでも
 思うこっちゃな」
北小岩 「ふう・・・。
 ここに蝉の抜け殻がございます。
 わたくし、これを記念に
 持ち帰りたいと思います」
小林 「抜け殻と言えば
 気になる噂を聞いた。
 行ってみるか」
北小岩 「はい」

北小岩くんは先生の後を、
目をこすりながらとぼとぼ歩く。

小林 「ここや。
 おるか」

「おりもの。
 ではなく、おります」

北小岩 「先生のお話によりますと、
 あなた様が抜け殻と
 関係があるということですが」

「そのことですね。
 中へお入りください」

小林 「むっ!」

部屋にはいろいろな生物の抜け殻が
陳列されていた。

「長い間誰にも話せず、
 自分の心の中に
 しまっておきました」

小林 「ようわからんが、
 話してみい」

「僕が小学校を卒業した後なんです。
 中学生になると、
 顕著におちんちんが屹立します」

小林 「そやな」

「問題は朝なのです。
 その部分が天を向いています」

北小岩 「はい」

「そこで異変が起きまして」

北小岩 「と申しますと」

「ある日上を向いたイチモツに、
 蝉の抜け殻がついていたのです」

北小岩 「?」


「翌日には蟹の抜け殻、
 その翌日には蛇の抜け殻、
 その後もムカデ、エビ、トカゲ、
 ダンゴムシなど毎日違った生き物の
 抜け殻がついておりました」

小林 「そいつらはみんな、
 お前のちんちんで脱皮したと
 言うことなんやな」

「そうなんです。
 恐ろしくもあり、情けなくもあり、
 誰にも相談することができませんでした」

小林 「お前のちんちんは、
 生き物が脱皮したくなる何かを
 持っているというこっちゃな」
北小岩 「神秘的でございます!」

話だけを聞くと、その男のちんちんに
不思議なエネルギーがあるように思える。
しかし、よく見ると、
その男のちんちん自体が
抜け殻のようであった。
要するに、類は友を呼んだだけなのでは。
 

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2017-08-06-SUN

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