小林 |
「聞いたか」
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北小岩 |
「聞きました」
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小林 |
「俺たちの町から
69キロ離れた街道にできた
自動販売機のことを」
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北小岩 |
「そうでございますね」
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小林 |
「販売機で買った男たちは、
はっきりせんな」
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北小岩 |
「口を濁しておりますね」
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とぼとぼ
向こうから、買った男の一人が、
なさけなく歩いてきた。
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小林 |
「ヤツもそうやな」
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北小岩 |
「間違いございません」
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小林 |
「問い詰めてみるか」
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北小岩 |
「はい。
こんにちは。
あなた様は
69キロ離れた街道の
自動販売機で何か買いましたね」
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なさけ
ない男 |
「ああ」
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北小岩 |
「何を買ったのですか」
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なさけ
ない男 |
「買ったけど、
何も買ってないんだよ」
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北小岩 |
「どういうことでございますか」
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なさけ
ない男 |
「俺が悪かったんだよ」
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北小岩 |
「何が悪かったのでございますか」
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なさけ
ない男 |
「もういいよ。
何も聞かないでくれよ」
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そう言うと、
股間を握りしめながら走り去ってしまった。
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小林 |
「見たか」
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北小岩 |
「はい。
股間を握りしめていたところが
気になります」
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小林 |
「行ってみるか」
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師弟は69キロ先まで全力で走った。
途中、道端に落ちていたパンティを拾うのは
忘れなかった。
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北小岩 |
「あの販売機でございますね。
男性用の大人のおもちゃが
売られているようです。
『マン・ホール・ヘブン』と
書かれております。
おやっ、あたりをうかがいながら、
スケベそうな方が
やってまいりました。」
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スケベ
そうな
男 |
「この一番高いのを買うか。
見てるだけで興奮してきたな」
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自販機はまずボタンを押して、
それからお金を入れるようになっている。
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スケベ
そうな
男 |
「これで自分の手を
使わなくていいな。
いひひひひひひ」
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いやらしい声を出して、ボタンを押す。
ぎゅい〜ん
下の扉が開き、
女性の手を模した物体が伸びてきて
股間をつかんだ。
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スケベ
そうな
男 |
「いひひひ。
こんなサービスまであるのか」
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ガツッ ギュンギュンギュンギュン
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スケベ
そうな
男 |
「痛え!
思いっきり握ってきやがった!」
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パッパッパッ
ディスプレイに
タクシーメーターのようなものが現れ、
数字がどんどん上がっていく。
「お金を入れないと、料金が上がり続けるのよ」
女性の電子音が意地悪そうな声を出す。
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スケベ
そうな
男 |
「つっ、つぶれる!
なんで3万円も
払わなくちゃならないんだ!」
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ギュンギュンギュンギュン
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スケベ
そうな
男 |
「もっ、もう耐えられねえ!」
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男は表示されていた6万9千円を投入した。
しゅ〜〜〜
股間を握る力が緩められ、
手は販売機の中に戻っていった。
あまりのなさけなさに
男はどうすることもできずに、
股間をおさえながらとぼとぼ帰っていった。 |