小林 |
「町の植物研究会の女が、
何かを発明したらしい」
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北小岩 |
「何でございましょうか」
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小林 |
「町の物知りに
聞いてみるか」
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北小岩 |
「あそこの電信柱におります」
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物知りは町の動向をさぐるため、
よく電柱上部にへばりついている。
み〜んみんみん
意味はないのだが、
セミの鳴きまねをすることもある。
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北小岩 |
「うかがってまいります」
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弟子も電信柱にのぼり。
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北小岩 |
「植物研究会の女性が」
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物知り |
「女湯にいってごらん」
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北小岩 |
「かしこまりました」
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師弟が銭湯に行くと、
女湯から男女の声がした。
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男 |
「ここ、洗ってよろしいですか」
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女 |
「いいわよ」
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くちゅくちゅ
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女 |
「くすぐったいわ」
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小林 |
「むっ!
男の声は、
町有数のモテないやつや」
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北小岩 |
「確かに氏は
女湯に入っているようです」
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小林 |
「それだけやない。
女の大切なところを
洗っているに違いない」
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北小岩 |
「どういうことでしょうか」
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物知り |
「こういうことです。
研究会では
『性欲を失う種』を
発明したんです」
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北小岩 |
「そうなのでございますか!」
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物知り |
「そうなのです」
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北小岩 |
「もしかすると、
町有数のモテない方は、
その種を飲んで
性欲を失ったのですか」
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物知り |
「そうですね」
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小林 |
「それで女は安心して、
大切なところを洗わせても
よくなったんやな」
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物知り |
「そういことです」
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町の男たちにひとつずつ、
種が配られた。
それから、
モテない男たちの逡巡が始まった。
「性欲を持った状態で、
モテないまま女性に触れることもなく
一生を終わらすのか」
「性欲を失った状態で、
女性を洗える権利を持つのか」
どれぐらいの割合で
種を口にするのでしょうか。
考えてみたら、性欲を失っても
洗える権利を持つ男と
持たない男がでるに違いありませんね。 |