北小岩 |
「先生、
世を渡っていく上で
重要なことは何でしょうか」
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小林 |
「間隔やな」
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北小岩 |
「間隔でございますか。
哲学的ですね!
わたくしのようなものには、
何を意味するのかわかりません」
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小林 |
「間隔をあけることや。
町のある男がそれに気づき、
生き方を変えたんや」
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北小岩 |
「凄いでございます」
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小林 |
「今から
奴と会う約束をしとるから
来てみるか」
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北小岩 |
「はい」
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満面の笑みで弟子が先生の後をついていくと。
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北小岩 |
「むこうからいらっしゃるのは、
町で一番屁が臭いといわれている
『屁腐礼放(へぐされはなつ)』
さんではございませんか!」
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北小岩くんは屁腐礼氏の腐った屁を
肺の奥まで吸い込んでしまったことがあるため、
震えながら鼻をつまんで顔を伏せた。
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小林 |
「そんなことせんでも
大丈夫や。
奴は間隔を会得したからな」
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挨拶もそこそこに
屁腐礼氏の後をついて
エスカレーターに乗った。
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小林 |
「ここから先は、
奴の前に出んとあかん」
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北小岩 |
「どういうことでしょうか。
それに間隔で
世を渡るということも」
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小林 |
「ともかく
前に出なあかん!」
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師弟が屁腐氏の前の段に移ったその刹那。
ぶほっ〜〜〜!!!
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北小岩 |
「屁腐礼さんが
屁をこかれました!
あっ、はるか下に
後からエスカレーターに
乗ってくる人がおります。
わたくしたちは
エレベーターの
てっぺんに着きました。
ということは」
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小林 |
「そやな。
屁腐礼の滞空時間の
長い腐った屁を
後から来る奴らは
肺の奥まで吸い込むことになる。
だが、屁腐礼は
もうおらんわけやから、
誰の屁かわからんと
いうこっちゃ」
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北小岩 |
「つまり
後から来る人との
間隔があいているから、
今までは
屁腐礼さんの屁とわかって
責められていたものが、
責められずに穏便に
事が運ぶということで
ございますね」
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小林 |
「間隔によって
世を渡ることが
できるようになったと
いうこっちゃ」
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三人はその後、エレベーターに向かった。
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北小岩 |
「わたくしたちしか
おりません」
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びゅ〜ん
ぴたっ
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小林 |
「この上の階で
待っとるヤツがおる。
北小岩、すぐ降りるぞ」
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先生と弟子は、
弾丸のようにエレベーターから飛び出した。
ぶほっ〜〜〜!!!
屁腐礼氏が外に出ると、
毒ガスの箱が上がっていった。
これから屁を嗅いで卒倒する者たちには、
誰の屁を吸い込んだのかはわからない。
これもまた、氏が間隔を身につけたおかげだ。
それにしても、
先生は彼と会って
何をしようとしていたのだろうか。 |
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