小林 |
「冷える朝の散歩は
早足になるな」
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北小岩 |
「そうでございますね」
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ざっざっざっざっざっざっ
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小林 |
「このスピードだと
すぐには止まれんな」
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北小岩 |
「あっ、
巨大な犬の糞が
道を塞いでおります!」
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ぶにょ ぶにょ
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小林 |
「くそ!
踏み抜いてしまったわ」
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北小岩 |
「わたくしもです」
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小林 |
「しゃあない。
藁草鞋を洗いに行くか」
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踏み抜いてしまったブツを流すため、
町役場の水道に向かうと。
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北小岩 |
「屋上におっかなそうな
女性役人の方々が
いらっしゃいます」
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ばっ
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北小岩 |
「懸垂幕が
吊り下げられました」
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小林 |
「『ふにゃちん』と
書かれとる」
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北小岩 |
「どういうことでしょうか」
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小林 |
「わからん」
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北小岩 |
「あそこに
ご夫婦が
いらっしゃいますね」
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妻 |
「この標識、
ふにゃちんになってるわよ」
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見ると標識に車がぶつかったらしく、
ぐんにゃりとしている。
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夫 |
「そんな言い方やめろよ」
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妻 |
「あんた知らないの」
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夫 |
「何がだよ」
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妻 |
「今日からこの町では、
ぐんにゃりしたもの、
やわらかいもの、
なさけないものを
すべて『ふにゃちん』と
呼ぶことに決まったのよ」
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夫 |
「そんなことされたら、
男の威厳がたもてないだろ」
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二人の会話に一人の女が割って入った。
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一人
の女 |
「何が威厳よ。
ふにゃちんのくせに」
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夫 |
「えっ」
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妻 |
「妻の私が
あんたのふにゃちんを
知っているのは
当然だけど、
なんでこの人も
知っているのよ」
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一人
の女 |
「ふふふふ」
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一人の女は、
不敵な笑みを浮かべて去っていった。
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妻 |
「あんた、
浮気しようとして
ふにゃちんで
失敗したんでしょ」
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夫 |
「そっ、そんなことは」
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ぼこっ
妻の鋭い蹴りが、ふにゃちんをとらえた。
ぼこっ ぼこっ ぼこっ
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夫 |
「うっ、
ぐふっ、ぐふっ」
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永久に続きそうな勢いだ。
今私たちにできるのは、
この蹴りが劇薬となり、
奇跡的にふにゃちんが解消されるのを
願うことだけである。 |