小林 |
「今年もまた
この日が来たな」
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北小岩 |
「8月20日。
男性の魂を鎮める日でございます」
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小林 |
「なぜ毎年この日なのか知っとるか」
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北小岩 |
「存じません」
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小林 |
「『やらはた』はどうや」
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北小岩 |
「ヤラずの二十歳(はたち)・・・。
それは
若き日のわたくしにとって、
この世で最も
恐ろしい言葉でございました。
はっ!8(ヤら)月20(はた)日で
ございますね。
鎮魂の日に
ふさわしいでございます」
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小林 |
「そやな。
では行くか」
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薄暮の中、二人が向かったのは町はずれの川。
ぽっぽっぽっ
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北小岩 |
「始まっておりますね」
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小林 |
「もの悲しいな」
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川岸に目を移してみよう。
そこにはモテない男たちが
多数かがみ込んでいる。
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北小岩 |
「この一年、
女性と気持ちいいことが
できなかった方々や
ブツが使い物に
ならなくなってしまった方々が、
己のイチモツを模した
灯籠をつくり、
川に流して
鎮魂するのでございます」
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小林 |
「言うなれば『チン魂』や。
『亀頭籠流し
(きとうろうながし)』とも
呼ばれとる」
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北小岩 |
「そろそろわたくしたちも
流しましょうか」
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小林 |
「そやな」
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師弟は風呂敷からそれぞれの亀頭籠を取り出した。
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北小岩 |
「今年こそは
いい思いができますように」
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小林 |
「おなごども、
ぐっと開いて待っとれよ」
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力なく灯った二人の分身が流されていく。
その刹那。
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小林 |
「むっ!
松明を灯した舟が近づいて来くるで」
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北小岩 |
「お仕置き隊の方々が乗っております」
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ざばざばざばっ
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北小岩 |
「鵜を放ちました」
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舟上の
お仕置
き隊女
A |
「お前らのこ汚いチンチンよ、
滅べ!!」
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舟上の
お仕置
き隊女
B |
「鵜よ、
鉄槌を下せ!!」
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ぐいぐいぐいぐい
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北小岩 |
「鵜が亀頭籠をくわえて
沈めております!」
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じゅっ じゅっ
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北小岩 |
「ああ、
わたくしたちのモノも・・・」
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モテない男たちの『チン魂』は、
次々『沈魂』となってしまった。 |