「たのもう!」
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小林 |
「町境の向こうから
変なヤツが叫んどるな」
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「たのもう! たのもう!!」
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北小岩 |
「しつこいでございますね」
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小林 |
「道着を着とるな」
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「たのもう! たのもう!! たのもう!!!」
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小林 |
「何をたのむのか
聞いてみい」
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北小岩 |
「はい。
あなたさまは何を
たのむのでございますか」
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「あんた方の町は
『まわし相撲』でナンバーワンだな」
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小林 |
「そやな」
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「だもんだから
おいらが町で一番の男と闘って
一番になるんだ」
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小林 |
「なるほどな。
言うなれば道場破りやな。
だがまず名を名乗るのが
礼儀やろ」
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「失礼した。
おいらは
『玉大木井度!(たまおおきいど!)』と
申すもんです」
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小林 |
「町には玉自慢が
ぎょうさんおる。
吠え面こくなよ。
北小岩、
町はずれの祠に行って
誰に征伐させるか
長老に聞いてこいや」
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北小岩 |
「かしこまりました」
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弟子は全力疾走で祠に到着すると
長老のこ汚い字で
町の代表選手が書かれた紙を携え
再び戻ってきた。
政治家が元号を発表する時のように
紙を広げると読み上げた。
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北小岩 |
「『そんなもんは
小林の玉でいいじゃろ』」
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先生の顔が見る見る青ざめていく。
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小林 |
「俺はまったく強くないし
強靱でもない・・・」
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『まわし相撲』とはこの世の闘いでも
最果てといってよいほどの過酷なものである。
日時は本日の
19時19分(いくいく)が指定された。
決戦の刻が近づくと
町の公園に大勢の男たちが詰めかけた。
先生と玉大木氏はまわしを締めている。
二人の勇者が向き合う。
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行司 |
「はっけよい!
つぶれた!!」
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不穏な始まりである。
マン力という工具で
まわしを極限まで締め上げる。
すると金玉があっぱくされて
まわしからはみ出してくるのである。
通常の大会では優勝者は、
はみ出し横綱と呼ばれる。
ギリギリギリ
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北小岩 |
「両者の玉金が
まわしの隙間から
こんにちはをしてまいりました」
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今年度
優勝者 |
「町代表なんだから
玉を失っても負けんなよ!」
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ギリギリギリギリギリ
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行司 |
「つぶれた!
つぶれた!!」
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マン力がさらに締め上げる。
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北小岩 |
「あっ!
先生の玉金が
紫色になっております!」
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ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
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小林 |
「うげ〜〜〜!」
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先生が失神すると同時に
玉大木氏も悶絶した。
行司がミクロンまではかれる電子定規で
どちらの金玉がよりはみ出しているかを
計測した。
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行司 |
「勝負あり!
玉大木の勝ち!!
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「ああ〜」
会場から絶望の玉息、
もとい、ため息がこぼれた。 |