小林秀雄、あはれといふこと。

その拾七・・・先輩

新宿午前2時。
ゴールデン街「くらくら」のカウンター。
ホワイトのロック6杯目を飲み干すと、
先輩は眉間に皺をよせてつぶやいた。

「なあ小林、おまえ3Pしたことあるか?」

ブフッ。とうとつな問いにむせかえった。

「俺はあるんだよ。3Pしたことがね」

先輩の目はキラキラと輝き、誇らしげな表情になった。
20歳の学生であった私。
30歳、社会人の先輩。
さすがに大人の世界は違う。
すでに3Pまで体験済みとは。
先輩にはどこかアウトローな雰囲気があったが、
ポーズではなく本物だったのだ。
私は尊敬の眼差しをむけた。

「前に会社の野口さんて人と飲みに行ったんだよ。
めちゃめちゃ飲んでわけわかんなくなって、
その店に1人で来ていた女をナンパしたんだ。
女もラリッた感じになってて、
そのままホテルに連れ込んだ」

先輩はつまみのコンビーフ玉子焼きを箸で突っつくと、
眉間に皺をよせた。

「ホテルでまた酒をがんがんに飲んで、
そのうち野口さんが女を脱がせてヤリ始めた。
だけど、野口さん飲みすぎたせいで
入れたまま腰ぬけちゃって、
動けなくなっちゃったんだよ」

「どうしました?」

1 世界一なさけない男の図

「おまえこっち来て俺の腰を動かせ!
って怒鳴るんだ。
野口さん怒ると怖えからすぐ駆けつけて、
後ろから野口さんのケツを両手で持って、
前に後ろに前に後ろにって動かした」

「それ、めちゃめちゃ
ハードじゃないですか?」

「ああ。だから早く終わって欲しくて
『野口さん、もう少しです。がんばってイッてください!』
なんてワケのわからねえかけ声かけちまってさ」

「どうなったんですか?」

「3人ともドロドロに酔っぱらってるじゃん、
途中で疲れて寝ちゃったよ。
起きたらホテルの時間が来てそのまま帰った」

「そうですか・・・」

先輩、はっきり言わせていただきます。

先輩は3Pをしていない!

その話を終えると、先輩は自分の夢を語りだした。
そして「小林も夢を持たなくてはダメになるぞ」と言った後で、
なぜかスキーの話を始めた。

「俺、この間夜行バスでスキーに行ったんだよ。
まわりがいい女ばっかりでさあ。興奮したね。
それで寝たんだけど、すぐに夢精した」

「それって、めちゃめちゃ気持ちいいじゃないですか。
どんな夢を見たんですか?」

2 なさけない夢精の図

「それがさあ、自分がオナニーしている
夢を見てイッちまったんだ」

先輩、はっきり言わせていただきます。

先輩の夢には、夢がない!

先輩の家へ行くと、
ドアにサルトルのポスターが貼ってあった。
「俺が本当に愛しているのはこういう世界なんだ」そう言って、
発展途上国の子供たちが濁った河で素っ裸になり、
遊んでいるビデオをつけた。
「いいねえ、いいねえ」。
先輩は目に涙を浮かべている。
そして、引き出しからコンドームを取り出すと、
眉間に皺をよせて言った。

「Mサイズを買ってみたんだけど、
俺には小さすぎて痛いんだよ。これ、小林にやるよ」

先輩、ポコチンの大きさを自慢するのに、
眉間に皺をよせるのはやめてください!

もう、わけわかんないっスよ、俺。

1998-10-09-FRI

BACK
戻る