その拾八・・・奉行
日本人から最も愛されてきた男の一人、遠山の金さん。
あの鮮やかな桜吹雪は、人の心に爽やかに舞い落ちる。
だが、ある意味でアナーキーな文化を持つ江戸の町には、
きっと、もっと凄まじい男がいたに違いない。
遠山の金さんよりも、数倍スケールの大きな男が・・・。
その男の名は「遠山の金玉さん」。
裏町奉行所のお奉行様である。
水戸黄門のように、
助さんによく似た助平さんという手下を
従えているのだが、
助平さんは女装して女風呂に入り込んでは
追い出されたり、
すれ違う女に指浣腸をしたりしているだけで
なんの役にも立たないので、ここでは割愛する。
遠山の金玉さんは、普段は町で博打をしたり
酒を飲んだりという遊び人の生活を送っている。
娘衆にも人気が高く、
店の娘たちはお尻をなでられると
「あらいやねえ、金玉さんたら」と言って、
頬を赤らめるのだ。
金玉さんは「おっ、いけねえ。この指がいけねえな」
などとのたまい、親指を人指し指と中指の間から突き出すと、
そのままの形で頭をかくのだった。
遠山の金玉さんは、竿は10センチほどと長くないが、
直径20センチはある堂々とした金玉をぶら下げている。
これが遠山の金玉さんと呼ばれるゆえんである。
悪人との接触は巧みだ。
(ケース1)
土蔵の屋根から下りてきた金玉さん。
手に大きな丸いものを抱えている。
「あぶねえあぶねえ、 スズメバチが巣をつくっていやがった」
と言い、前を通りかかった悪人にその玉を見せる。
スズメバチの巣とは少し違うので、
悪人が不思議そうな顔をしていると、
「だまされた~?俺の金玉だよ~ん」 などとおどけてみせる。
だが、そのあまりに大きな金玉は、
悪人の記憶にしっかりと刻みこまれる。
(ケース2)
悪人が風呂に入っていると
「旦那、背中流しますぜ」といって勝手に背中を流し、
いきなり悪人の前方に回り込むと二つの巨金玉をよせて
自分の竿をはさみ込み、「パイズリ~」と雄叫びをあげる。
悪人はびっくりしてイスから転げ落ちてしまう。
だが、そのあまりに大きな金玉は、
悪人の記憶にしっかりと刻みこまれる。
(ケース3)
易者に化けている金玉さん。
台の上に巨大な玉を置いている。
「ちょっとそこのおにいさん、
いい儲け話があると水晶に出てますよ」
と悪人を呼び止め、悪人が近づくと
「おっと、間違えたぜ。
これは水晶じゃなくて、俺の金玉だ」
と言う。
だが、そのあまりに大きな金玉は、
悪人の記憶にしっかりと刻みこまれる。
とまあ例をあげたらきりがないが、
このようにして悪人の脳裏に己の金玉の
威容を刷り込むのだ。
それから、お奉行様として悪人を捕らえる。
裏町奉行所でお裁きが始まる。
遠山さまのおな~り~。
はは~。
「その方、この娘の病弱の父を
事故と見せかけ殺害し、
多額の金を強奪したこと、相違ないな」
「めっそうもございません、
私にはまったく身に覚えのないこと。
そこの娘が父を殺し、若い男と乳くりあって
暮らすために金をとったんでしょう」
「おうおうおう、
しらばっくれるのもいいかげんにしやがれ。
並の金玉はごまかせても、
俺の金玉までごまかせると思うなよ」
すかさず袴とふんどしを空に放り投げる遠山の金玉さん。
この金玉を忘れたとはいわせねえぜ!
巨大な金玉を見た悪人の顔が青ざめていく。
地面に額をこすりつけひれふす。
「その方に、市中引回しの上はりつけ。獄門を言い渡す!」
遠山の金さんのはるか上をいく男、遠山の金玉さん。
きっと、いたに違いない。
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