小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

その参拾弐・・・一言

 
この世には二種類の男がいる。
女から辛辣な一言を浴びせられる男と、そうではない男だ。

私? もちろん前者です。
その度にちょっぴりなさけない心になりました。
今宵は友と杯を傾けながら、そんな小物チックな出来事を
静かに語り合おうと思います。銘酒「女体山」を
差しつ差されつ・・・。
小林 「いやあ、久しぶりの日本酒はしみるねえ。
 ところでさあ、俺の行ってた高校って
 昔女子校だったんだよ。お嬢様学校。
 男女比が1:3だった。一学年、男100人に対して
 女300人」。
友 「それってさ、酒池肉林じゃない。肉林ジャングル」。
小林 「数字だけ見ると授業中に4Pでもしてるように
 見えるだろ。保健体育は体位を実地で学んだり。
 でもね、そんなことはないんだよ。
 イナゴがさ、ある固体数以上になると凶暴になるじゃん。
 女もね、たくさんいるとかなりヤバい。
 学年に4クラスほど女子クラスというのがあってさ、
 壁にゴキブリが何匹もセロテープで貼られて
 もがいていたよ」。
友 「何だか俺たちみたいだな、そのゴキブリ」。
小林 「ああ。それでさ、俺軽音楽部とハンドボール部に
 入ったんだよ。特に軽音楽部は女の力が強くて、
 部長は代々女って決まってたんだ。
 初めての部会の時に面白い顔をした女の先輩がいて、
 思わず『がま親分!』って言っちゃった。
 それが聞こえちゃってさ」。
友 「どうなった?」
小林 「教室を出るときに部長から呼び出しがかかった。
 あとで校舎の裏に来いって。
 仕方ないからアホ面下げていったんだ。
 そしたら脅された」。
友 「何て?」
小林 「『なめるんじゃないわよ。あんた、泣かすわよ!』って」
友 「あははは。高校生にもなって女から泣かすぞって
 脅されたんだ。なさけねえ」。
小林 「どうせだったら、部長の大切なところをなめた後で
 『なめるんじゃないわ!』って言われたかったな」。
友 「あははは。くだらねえ」。
小林 「なさけないといえば、前に女を本気で怒らせた事が
 あってさ。それで思いっきり金玉を蹴りあげられたんだ。
 玉が粉々に砕ける音がしたな、頭の中で。
 すげえ蹴りだったよ。重い鉛がローリングしながら
 こみ上げてくる感じで脂汗が流れた。
 でさ、蹴られた瞬間に俺が何ていったと思う?」
友 「ごめんなさい、か?」
小林 「ふつうだったら謝るか痛がるかじゃん。
 でもね、俺、金玉両手で押さえながら大きな声で
 『ハイ!』って返事をしちゃったんだよ」。
友 「あははは。だらしねえなあ。
 教室で手をあげてるんじゃないんだから」。
小林 「いまだにあの『ハイ!』っていうのが
 何を物語るのかわからないんだ」。
友 「もしかしたら、金玉が女のことを
 先生だと思ってたんじゃないの。
 お前の金玉って意外と優等生なのかも知れないね」。
小林 「俺、金玉で奨学金もらってたからな。んなわけねえか。
 あとさ、これもなさけない話だけど、
 前にいろんなことがあっていやになっちゃって、
 つい弱気になって女にもう死んでしまいたいと
 つぶやいたことがあったんだ」。
友 「女、あせってた?」
小林 「いや。その瞬間に目がギラリと光った。
 それでまた、辛辣なことを言われた」。
友 「何?」
小林 「ああ」。
友 「何だよ」。
小林 「女の目が光ってさ、『そんなことをいう男に限って、
 命乞いをするんだ!』って怒鳴られた。
 まだ、命乞いなんてしたことないのにさ」。
友 「げげっ、命乞いをする男のレッテルを貼られたんだ。
 それって男として最低の勲章じゃん。
 『命乞いをする男 小林秀雄』! 今夜は飲もう」
そういえば、小林先生は女から「三下」と言われたことも
「チキン(臆病者)」と呼ばれたこともある。
「立派なのはケツ毛だけ」と捨て台詞をはかれたことも。
近頃では
「足軽が似合う男」と言われたらしい。
女の辛辣な一言が男を成長させる場合もあるが、
小林先生の場合はただなさけなさが増すだけである。

1999-07-25-SUN

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