この世には二種類の男がいる。
女から辛辣な一言を浴びせられる男と、そうではない男だ。
私? もちろん前者です。
その度にちょっぴりなさけない心になりました。
今宵は友と杯を傾けながら、そんな小物チックな出来事を
静かに語り合おうと思います。銘酒「女体山」を
差しつ差されつ・・・。 |
小林 |
「いやあ、久しぶりの日本酒はしみるねえ。
ところでさあ、俺の行ってた高校って
昔女子校だったんだよ。お嬢様学校。
男女比が1:3だった。一学年、男100人に対して
女300人」。 |
友 |
「それってさ、酒池肉林じゃない。肉林ジャングル」。 |
小林 |
「数字だけ見ると授業中に4Pでもしてるように
見えるだろ。保健体育は体位を実地で学んだり。
でもね、そんなことはないんだよ。
イナゴがさ、ある固体数以上になると凶暴になるじゃん。
女もね、たくさんいるとかなりヤバい。
学年に4クラスほど女子クラスというのがあってさ、
壁にゴキブリが何匹もセロテープで貼られて
もがいていたよ」。 |
友 |
「何だか俺たちみたいだな、そのゴキブリ」。 |
小林 |
「ああ。それでさ、俺軽音楽部とハンドボール部に
入ったんだよ。特に軽音楽部は女の力が強くて、
部長は代々女って決まってたんだ。
初めての部会の時に面白い顔をした女の先輩がいて、
思わず『がま親分!』って言っちゃった。
それが聞こえちゃってさ」。 |
友 |
「どうなった?」 |
小林 |
「教室を出るときに部長から呼び出しがかかった。
あとで校舎の裏に来いって。
仕方ないからアホ面下げていったんだ。
そしたら脅された」。 |
友 |
「何て?」 |
小林 |
「『なめるんじゃないわよ。あんた、泣かすわよ!』って」 |
友 |
「あははは。高校生にもなって女から泣かすぞって
脅されたんだ。なさけねえ」。 |
小林 |
「どうせだったら、部長の大切なところをなめた後で
『なめるんじゃないわ!』って言われたかったな」。 |
友 |
「あははは。くだらねえ」。 |
|
小林 |
「なさけないといえば、前に女を本気で怒らせた事が
あってさ。それで思いっきり金玉を蹴りあげられたんだ。
玉が粉々に砕ける音がしたな、頭の中で。
すげえ蹴りだったよ。重い鉛がローリングしながら
こみ上げてくる感じで脂汗が流れた。
でさ、蹴られた瞬間に俺が何ていったと思う?」 |
友 |
「ごめんなさい、か?」 |
小林 |
「ふつうだったら謝るか痛がるかじゃん。
でもね、俺、金玉両手で押さえながら大きな声で
『ハイ!』って返事をしちゃったんだよ」。 |
友 |
「あははは。だらしねえなあ。
教室で手をあげてるんじゃないんだから」。 |
小林 |
「いまだにあの『ハイ!』っていうのが
何を物語るのかわからないんだ」。 |
友 |
「もしかしたら、金玉が女のことを
先生だと思ってたんじゃないの。
お前の金玉って意外と優等生なのかも知れないね」。 |
|
小林 |
「俺、金玉で奨学金もらってたからな。んなわけねえか。
あとさ、これもなさけない話だけど、
前にいろんなことがあっていやになっちゃって、
つい弱気になって女にもう死んでしまいたいと
つぶやいたことがあったんだ」。 |
友 |
「女、あせってた?」 |
小林 |
「いや。その瞬間に目がギラリと光った。
それでまた、辛辣なことを言われた」。 |
友 |
「何?」 |
小林 |
「ああ」。 |
友 |
「何だよ」。 |
小林 |
「女の目が光ってさ、『そんなことをいう男に限って、
命乞いをするんだ!』って怒鳴られた。
まだ、命乞いなんてしたことないのにさ」。 |
友 |
「げげっ、命乞いをする男のレッテルを貼られたんだ。
それって男として最低の勲章じゃん。
『命乞いをする男 小林秀雄』! 今夜は飲もう」 |
そういえば、小林先生は女から「三下」と言われたことも
「チキン(臆病者)」と呼ばれたこともある。
「立派なのはケツ毛だけ」と捨て台詞をはかれたことも。
近頃では
「足軽が似合う男」と言われたらしい。
女の辛辣な一言が男を成長させる場合もあるが、
小林先生の場合はただなさけなさが増すだけである。 |