小林秀雄のあはれといふこと

其の参拾四・・・甲子園

今年の夏の甲子園は、桐生第一高校の優勝で幕を閉じた。
群馬県に初めて持ち帰る真紅の大優勝旗。
おめでとう。君たちのさわやかな笑顔を、
私は忘れることはないだろう。

今年の球児を眺めてみると、惜しいと思った男が一人いた。
岡山理大付属の主砲森田捕手である。
その剛打とずんぐりした体型から、
ドカベンと呼ばれた男だ。
以前にも香川がドカベンと呼ばれていた。
そのように愛称で親しまれる男が好きだ。
今までであだ名で呼ばたベストプレイヤーは誰だろう。
日本きっての高校野球通と言われる
野球じいさんの話を聞いてみたい。

弟子 「先生、野球じいさんというのはどんな人なのですか」。
小林 「高校野球を見つづけて69年という
 高校野球の生き字引のような人や。今日はじいさんに、
 一番のお気に入り選手について聞こう。
 ここがじいさんの家や」。
弟子 「ずいぶん狭い門ですね。
 あっ、ホームベースが置いてある。
 向こうにピッチャーマウンドがありますよ!」。


門と門の間がストライクゾーンになっており、
訪問者は持参した硬球を投げストライクをとらないと
家に入れない。弟子の北小岩くんが
三十球目にやっとストライクをとった。
すると中から野球じいさんが出てきた。
野球
じいさん
「ストライク! どうじゃ、ほどよく肩が
 あったまったじゃろ」。
話を聞きに来たのに、肩をあたためて
どうするというのだろう。
小林 「野球じいさん、おひさしぶりです。
 今日は味のあるあだ名で呼ばれ、
 強い個性を持った球児を教えてもらいにきました」。
野球
じいさん
「ボール! まあ、わしも69年間高校野球を
 見つづけてきた男じゃからな。
 高校野球のヒダの奥まで知っとるぞい」。
わけのわからないことをいっている。
野球
じいさん
「そうじゃなドカベン香川も
 なかなか愛嬌のある男じゃったが、
 それ以上に印象に残っている男がいるな。
 それはダイベンと呼ばれて愛された男じゃ」。
弟子 「どんな男ですか」
野球
じいさん
「豪快なアイデア男じゃった。
 ダイベンの守備位置は決まっておらず、
 いろいろな所をこなした。
 一塁を守りランナーがリードした瞬間だった。
 ダイベンがランナーのケツのあたりに金玉を押しつけて
 グラインドさせている。審判が不信に思い近づくと
 ダイベンはパンツの中の金玉の隣に球を隠しており、
 隠し球でピンチを救ったのじゃ。観客は
 『これぞ真の隠し玉!』と大いに沸いたのじゃが、
 公式記録からは削除されてしまった」。
小林 「なかなかの切れ者やな」。
野球
じいさん
野球じいさん
「うむ。ピッチャーをやった時もな、
 ロージンバッグを使用済みパンティに入れると
 指がいい仕事をするといって、
 粉をパンティに入れ替えとったな。
 特に穴付きのやつを使ったときは凄かった。
 球がよがりながらバットの上でのけぞるんや」。
弟子 「ほんとうですか」。
野球
じいさん
「ああ。高校野球は試合開始の時サイレンが鳴るじゃろ。
 ウーと鳴るところを
 『ウッウーン、イヤーン、アアーン』
 と鳴るように細工し、相手投手が突然性に目覚めて
 配球を乱し、69点とって勝ったこともある。
 そうそう、相手のメンバー表に
 密かに付け足したため、うぐいす嬢が
 『4番サード山本くん、背番号5、Pサイズ8センチ』
 と公表してしまい、短小を気にしていたスラッガーが
 全打席三振したことも」。
小林 「敵に回すと恐ろしい男やな」。
野球
じいさん
「キャッチャーをやっていた時には、
 ポコチンをなでたりつかんだり回したりして
 サインを送っていたらつい気持ちよくなってしまい、
 そのままマスをかいてしまったな」。
弟子 「それほどまでに個性の強い球児がいたとは。
 ダイベンか・・・。
 ところでどうしてダイベンというのですか?」
野球
じいさん
「味方の攻撃の時、投手の肩が冷えないよう
 ブルペンで球を受けていて、便意をもよおし、
 その場でクソをしてしまった。
 試合に負け、みんなが泣きながら
 袋に土を入れていたのに、
 彼だけは袋に自分のクソを入れて持ち帰ったんじゃ。
 犬の散歩中クソをそのままにしてしまう
 飼い主がいるが、彼はきちんとマナーを守った。
 それをみんなが殊勝な男と評価したんじゃ」。



ダイベン・・・。それはとてつもなく礼儀正しい男。
そしてアイデアに満ちた天才球児。

このように偉大な選手が、来年の夏
甲子園に現われることを期待したい。

1999-09-04-SAT

BACK
戻る