小林秀雄のあはれといふこと |
しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。 そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、 深く味わい尽くしていく。 それがこの項の主な趣向である。 其の四拾・・・・意見 衝撃的な事件が起こると、 新聞には評論家や精神分析医の話が掲載される。 だが、その意見は単に 一面に光を当てているだけのことが多い。 ある人の考えにしか過ぎないのに、 巨大なメディアであるがゆえに、 それが普遍的な価値観であるという錯覚を 読者に抱かせてしまう危険がある。 それが新聞というメディアの持つ 大きな落とし穴ではないだろうか。 新聞について深く考察するために、 ケーススタディをしてみたい。 例えばキャベツ畑に囲まれた静かな村で、 こんな事件が発生したとする。 (事件概略) 今まで女とまったく付き合ったことがない 35歳の男がいた。もちろん童貞である。 夜中に畦道を歩いていたが、 そこに現れたのは男の股間に 鐘を鳴らさずにはおかないイイ女だった。 女は何を思ったか男の後をつけ、突然押し倒した。 男は強盗に襲撃されたのかと思い必死にもがくが、 よく見るとぱっつんぱっつんのイイ女である。 女は男のパンツを下げると男にまたがった。 男は一瞬身を硬くするが、欲望には勝てずに あそこまで硬くした。 男はあっという間に昇天。 あまりの気持ちよさに心臓が停止し、 ほんとに天国まで昇ってしまった。 上記のような事件が起きた場合に掲載されるのは、 例えば以下のような分析である。 <精神分析医・魔羅山登さんの話> 「ついにここまで来たか、という思いです。 バーチャルな世界の中でしか性を謳歌できなかった男は、 現実の体験に対して精神も肉体も 脆く過敏になっています。 性というある種過激な舞台で 異性と対等な関係を築いてこれなかった男の未熟性が、 今回の悲劇を招いたと言えます。 現実の生から逃避し、精神的肉体的に イニシアティブをとれない男が激増している今、 様々な局面でこれに類する事件が 頻発する危険があります」 この意見にも確かに一理あるかもしれない。 だが、ここから事件の核心に迫ることは難しい。 結局、分析のための分析にしか過ぎないのである。 さらにあらゆる立場から発せられる話を検証せねば、 物事の本質は見えてこない。 では、いろいろな意見を聞いてみることにしよう。 <被害者性器の話> 「モテない男のちんちんとして生まれてきたばっかりに、 私は小便をするだけの道具として 一生を終わるのかと思っていました。 だから、一生に一度でも気持ちのいい思いをさせてくれた 加害者に感謝しております。 今度生まれてくる時には、 モテる男のちんちんとして生まれてきたいと思います」 <現場で見ていたカマキリ(オス)の話> 「この事件は人ごととは思えません。 被害者には遺伝子レベルでシンパシィを感じます。 私も性交後に死ぬ運命だからでしょうか。 でも、被害者と私のどちらが幸せかといえば、 悦楽の中で好きな女に食べられてしまう私の方が、 骨の髄から幸せのような気がします」 <現場で見ていたカマキリ(メス)の話> 「種を効率的に守るために、私は性交後にオスを食べます。 でも、この人間たちにはとても共感できません。 性欲の亡者です。 時々、メスカマキリは人間から残酷だと非難されますが、 のべつまくなし種の保存と関係のない セックスをする人間の方こそ、 神から軽蔑されるべき生き物だと思います」 <徳川綱吉の話> 「この下僕は犬死にすぎん。 犬死するヤツなどにかまわずに、 もっと犬を大事にすることだ」 <奈良の大仏の話> 「今まで黙っていましたが、 僕、ほんとは結構スケベなんです。 だから、僕の視界の中で 絶対にこんな事件を起こしてほしくないですね。 万が一興奮して勃起してしまったら、 長年かけて築き上げた信頼が一瞬にしてパーですから」 <下敷きになったキャベツの話> 「加害者はとっさに俺を被害者のケツの下に入れて、 腰がそりあがるようにしやがった。 とことん、快感を貪ろうとしたのさ。 まったく人の上でなんてことするんだよ。 激しく動きやがったおかげで、 皮がむけちまったじゃねえか。 誰が賠償してくれるんだ」 <被害者パンツの話> 「この男はふぐりの付け根をよく洗ってないから 臭かったんです。 これでイカ臭い日常から開放されます。 ありがとう、べっぴんさん」 <和同開珎(わどうかいちん)の話> 「私と被害者の接点は、 和同開珎の『ちん』という響きだけである。 私も忙しい身なのだから、 それだけのことで電話をかけてくるのは 止めていただきたい」 <加害者のハンカチの話> 「私、シルクのハンカチーフです。 もしもことが終わって二人がなかよくなってしまって、 男の汚いモノをふかれたら 私自殺するしかありませんでした。 二次災害を命と引き換えに防いでくれた被害者は、 今時珍しい勇者です」 <外灯の話> 「変な声が聞こえるから照らしてみればこのありさま。 僕の場所からだとだらっと下がった 男の玉金ばっかり見えてました。 わざわざ照らす必要などなかった。 資源の無駄遣いですね」 <被害者の戒名の話> 「いくらなんでも、戒名を 『悶絶院昇天居士』なんてつけるなよ。 戒名の友だちに名前を聞かれても答えられないよ。 悶絶院だと? この男がなさけねえ死に方をするのが悪い。 そんなヤツは死んじまえ!あっ、もう死んでるか」 このように、それぞれの立場、状況によって 意見というものは大きく異なってくるものなのである。 事件をできるだけ正確に報道しようと思ったら、 数人の意見を掲載するにとどまらず、 幅広い人やものから話を聞き、 事件を立体的に世に問うことが重要であろう。 |
2000-12-18-MON
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