北小岩 |
「決まり手が現在の七十手になったのは
1960年だそうです。つまり40年
ぶりに増えることになるのですね」 |
小林 |
「そうやな。見直しの大きな理由は、
モンゴル出身力士の増加にあるそうや。
相手を倒して勝負をつけるモンゴル相撲では、
相手の背中をとることが絶対有利なんや。
近年、素早い動きで背後から攻めるモンゴル勢が
数多く入門し、従来の決まり手だけでは
定義しきれんようになったらしい」 |
北小岩 |
「ところで実演会はいかがでしたか?
相撲ファンの私としましては、
どんな技が加わったのか一刻も早く知りたいです」 |
小林 |
「今回の改革を担当した決まり手係は
『蟻のト渡り親方』と『鶯の谷渡り親方』や。
この希代の名力士が、
体を張って数々の技を実演しておられた」 |
北小岩 |
「面白そうな技はございましたか?」 |
小林 |
「相手を肩にかつぎ上げてから反る『しゅもく反り』、
まわしの結び目あたりをつかみ上げて落とす
『つかみ投げ』など奥深い技が多かった。
だが、特に印象に残ったのは『ウタマロ自慢』やな。
外人女性はその昔、
歌麿の絵を見て日本男児の持ちモノに
畏怖と憧憬を抱いたそうやないか。
そこがポイントや。
まわしでちんちんをつぶすようし、
通常よりかなり大きめに見せる。
その痛々しいほどもっこりした部分を
スケルトンにしておくんや。
相手に
『今俺がこの力士に勝ってもそれはひと時のこと。
これからの人生でこいつはその持ちモノを豪快に使い、
たくさんいい思いをするのではないか』
という絶望感に陥らせる心理技や」 |
北小岩 |
「相撲も年々高度になってきてますね」 |
小林 |
「それとな、思わず瞠目した技が『シ〜、とっと!』や。
よく幼児がお母さんに後ろから太ももを抱えられて、
外でおしっこさせられるやろ。
あの体勢をとらされ『シ〜、とっと!』といわれたまま
土俵の外に運ばれてしまうんや」 |
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北小岩 |
「それは一生の屈辱です!」 |
小林 |
「そうや。さらに驚愕したのは来場所から
15歳未満の観戦を禁じる
R指定の技が追加されたことや」 |
北小岩 |
「なんと!」 |
小林 |
「『一本抜き』という大技や。
相手のまわしを片手でむんずとつかみ
動かせないようにする。
そしてまわしの上からあの部分を
やさしくさすり続けるんや。
最初は技から逃れようともがくが
そのうち気持ちよくなり、つい身をまかせてしまう。
フィニッシュしそうになったら行司に合図せなあかん。
行司はその合図を受けて
『一本抜き、待ったなし!!』と大声で宣告し
力士はあえなく昇天。
大黒星を喫するというわけや」 |
北小岩 |
「なるほど。
そのような恥ずかしい技は、
まだ人生経験の浅い人たちは
観てはいけないというわけですね」 |
小林 |
「そうや。『一本抜き』の体勢に入ったら、
15歳未満のものは一時会場から退出せねばならん。
テレビ観戦の場合はスイッチを切らねばあかん」 |
北小岩 |
「それが決まるまでには3分ぐらいかかるので、
会場から出たりテレビを消したりする時間が
あるというわけですね」 |
小林 |
「うむ。
それからここだけの話やが、弓取式も変わるそうや。
名前からいってかなり豪勢やぞ。
新弓取式は『ナン金玉簾』というんや」 |
北小岩 |
「南京玉簾の間違いではないですか?」 |
小林 |
「そんな生やさしいものではない。
『ナン金玉簾』は荘厳な金玉の流れ星や」 |
北小岩 |
「うほっ!」 |
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小林 |
「ナンというインドの食べ物があるやろ。
3メートルある特大のナンをつくり
土俵に横にして立てる。
その稜線にそって力士たちが
金玉を流れ星の如く移動させていく。
それに参加できるのは金玉のでかい順に三人までや。
通常の番付とは違う。
正真正銘『金玉の三役』。
陰毛という影に、金玉というはかない光り。
まさに陰翳礼讃の世界や」 |
北小岩 |
「日本に脈々と受け継がれてきた古き良き味わいですね」 |
小林 |
「それだけやないで。
金玉が流れている間に願い事をすると、
二つまで願いがかなうという寸法や」 |
北小岩 |
「金玉は二つ。願いも二つ」 |
小林 |
「掛け声はもちろん『金、たまや〜!』や。
これで弓取式の途中に席を立つ不埒な者が
いなくなるやろ」 |