S木 |
「今日は俺の大切な記念日だからね、
ぜひ小林くんに祝って欲しいと思ったんだ」 |
小林 |
「何の記念日ですか?」 |
S木 |
「20年前の今日、
俺と同志たちが完全燃焼した日なんだよ」 |
S木さんの話は、いつもどこか大げさで匂うものがある。 |
小林 |
「完全燃焼とかいって、
屁でも燃やしていたんでしょう」 |
S木 |
「えっ、どうしてわかったの?実はそうなんだよ。
友だちと一緒に会を結成してたんだ」 |
小林 |
「どんな会ですか?」 |
S木 |
「屁燃す会(へもすかい)っていうんだよ。
最盛期は10人ほどいたね。
みんなで俺の家に集まって、
ライターで屁に火をつける。
最初、やり方がよくわからなくて、
パンツを脱いで着火しちゃって、
ケツ毛に引火して火傷したよ。
それからいろいろな体勢を試してみたけど、
安全を考えると薄めのズボンを履いて
仰向けに寝っころがり、
足を顔のほうにもってきて燃やすのが
ベストだとわかった。
小林くんの好きな言葉でいえば、
まんぐり返しってやつだな」 |
安全のことを本気で考えるのなら、
屁など燃やさないのがベストだろう。それに、私
はまんぐり返しなどという言葉は好きではない。 |
S木 |
「でも、初めて成功して青い炎を目にした時には
胸がじ〜んとしたなあ。
だって、自分の体の中にこんなに凄いエネルギーが
眠っていたんだぜ。
俺も地球の一部なんだって実感したよ。
ほら、人間って地球から生まれたわけじゃん。
だから地球にあるすべてのエネルギーが
体の中に存在しているはずなんだよ。
屁が天然ガス、糞が石炭、小便が水力、
セキやくしゃみが風力、射精が原子力。なっ。
だけど、
どうしても原油にあたるものがわからないんだ。
まだ誰も知らなくて、
体のどこかによく燃える液体が埋蔵されているんだと
思う」 |
いわれてみればそんな気がしてくるから不思議だ。 |
S木 |
「長期間焼きイモを食べた屁は赤、大豆は緑、
雑食は青の炎という話を読んだので、
食べ物をかえてみたけどよくわからなかった。
でも、腹を壊している時にビビビビッと出る屁は
線香花火だったな。
それからね、俺の家は
ハエがたくさん飛んでいてうっとうしかったんだよ。
だから電気を消して懐中電灯でケツに光を当てて
おびき寄せた。根気くらべだったね。
でもついに近寄ってきたんだ。
すかさず屁をこいて火を着け、ぶっとばしてやったよ。
あの時思ったね。俺はハエに勝ったって」 |
そこが彼の恐ろしいところなのだ。
屁を燃やしたことのある人はかなりいると思うが、
ハエをおびき寄せて屁で爆死させようとする男など、
世界に何人いるだろうか。
S木さんはその後も、屁でイモを焼くために
針金でケツにイモを固定する
「屁焼きイモホルダー」や、
フラれた女と一緒に移っている写真を屁で燃やすための
「彼女よさよオナラ写真立て」
というバカげたものまでつくったという。
S木さんをフッた彼女も、
まさか屁で写真を燃やされたとは思っていないだろう。
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S木 |
「でもそうこうしているうちに
二年ぐらいたっちゃってさ。
このまま続けていても発展性がないから、
会を解散しようっていう話になったんだ。
それで20年前の今日、俺の家に集まった。
最後まで残ったメンバーは三人だったよ」 |
小林 |
「ずいぶん減ってしまったんですね」 |
S木 |
「そうなんだよ。最後だからビールで乾杯しながら、
イモとかニラとかいい屁のもとをたくさん食ったんだ。
そろそろしめようということになり、
三人は電気を消して屁を燃やす体勢をとった。
そしたらね、浜部っていうヤツが
蛍の光を歌いだしたんだ。
俺ともう一人も小さな声で口ずさんだ。
蛍の光に合わせて炎が飛び交う中、会は解散した。
でもね、これで屁から卒業かと思うと
悲しくなってきちゃってさ。
屁を燃やしながら俺、泣いちゃったんだよ。
横を見たら浜部も泣いていた。
今思うとかなりまぬけなんだけどね」
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蛍の光を口ずさみながら屁を燃やし、