小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

その四拾五・・・・男優


「でかしたぞ、北小岩!」
「ありがとうございます、先生!」

弟子の北小岩くんが、
近所の商店街でくじ引きをしたところ、
バンコク旅行2名様ご招待を引き当てた。
それから二人はウキウキしてしまい、
何日も眠れない夜が続いた。
そして、ついに出発の日を迎えたのだった。

「エクスキューズミーや。
 ウイスキー&ウォータープリーズでんねん」

小林先生は久しぶりの海外旅行で高揚しているせいか、
日本人スチュワーデスに向かって、
関西弁まじりの変な英語でオーダーしている。

「わたくし北小岩と申す者ですが、
 柿の種などいただけないものでしょうか?」

北小岩くんは外人スチュワーデスに、
馬鹿丁寧な日本語で話しかけてしまっている。
小林 「快調なフライトやな。
 成田をたってどれくらいたったんや?」
北小岩 「そうですね。5時間ぐらいですかね」
小林 「もうそんなにたつか。
 俺ははしゃぎすぎて疲れたから寝るわ」
北小岩 「私も睡魔に襲われております。先生、おやすみなさい」
二人が目をつむったその時だった。

『ハアハアハア。アア〜ン。ハアハアハア。ウウ〜ン』

前のシートから息苦しそうな声が聞こえた。
あえぎ声のようでもある。
かなり興奮している。

「スチュワーデスさん、大変です!
 前方の外人レディの方が、苦しそうにしております」
とっさに北小岩くんが叫んだ。
日本人スチュワーデスが飛んできて、
もだえる女性客の様子をうかがった。
そして後ろを振り返ると、美しい顔を引き締めこう言った。

「気圧の変化と緊張のため、
 女性のお客様の性欲が高まり、
 極度に欲情してしまわれたようです。
 脈拍が異常に上がり、呼吸困難におちいっています。
 このままでは大変危険です!」

さらに大きな声で、こう呼びかけた。

「お客様の中に、AV男優の方はいらっしゃいませんか?」
「Attention please! 
 Are there any actors of pornography here?」

スチュワーデスは日本語と英語で、
AV男優が搭乗していないか確認している。
よくドラマで、機内で心臓発作の急患が出て、
医者がいないか呼びかけることがあるが、
彼女がとっさに機転をきかせたのだろう。
確かに、女性の欲情を素から静めるためには、
医者よりもAV男優の方が適任なのだ。
だが、名乗り出るものはいない。
通路横に座っているイチモツが立派そうな外人も、
自信がないのかうつむいてしまっている。
小林 「おらんようやな。どや、北小岩?」
北小岩 「残念ながら私には、
 外人レディを満足させることはできません」
北小岩くんが蚊の鳴くような声でつぶやいた時、
チョコレート色に日焼けした筋肉質の男が立ち上がった。
AV男優 「私はAV男優をしております。
 もし、お役に立てるようでしたら、ご協力いたします」



スチュワーデス 「ありがとうございます。ではすぐこちらへ!」
息も絶え絶えの外人女性を抱きかかえたAV男優が
機内前方に行くと、カーテンがひかれた。
機内は水を打ったようだ。
時々、女性の声が漏れてくる。
客は固唾を飲んでカーテンを凝視。
男優の動きに合わせて、カーテンが大きく揺れる。
そして数分後、雄叫びがあがった。

「I’m coming!!!!!!!!!!!」

しばらくすると、AV男優がカーテンから顔をのぞかせた。
AV男優 「もうだいじょうぶです。
 彼女の欲情は私がおさめました」
一瞬間をおいて、外人客から歓声があがった。
「ヘイ、チョコレートボーイ!ブラボー!!」。
一人が拍手をするとその輪が広がり、
機内にはスタンディングオベーションが巻き起こった。
全員が心からこの若者に讃辞を惜しまなかった。
小林 「さすがAV男優はんや。
 俺は以前、彼が出演しているビデオを観たことがある。
 相手がどんな女性であっても
  すぐに臨戦態勢をととのえ、
 極上の仕事をこなしておった。
 日々、そんな過酷な鍛錬をつんできたからこそ、
 いざという時にベストの力を発揮することが
  できたんや。
 彼女を救える男は他に誰もおらんかった。
 日本人よりオープンマインドで、
 いいモチモノをしている外人男性でさえ
  引いてしまった。
 それをあのAV男優が堂々となし遂げたんや」
北小岩 「ほんとに感動いたしました。
 彼こそ日本男児の誇りです!」
外人女性は平静をとりもどし、
脈拍も呼吸も落ち着いたようだ。
飛行機も無事着陸。
小林先生と北小岩くんはタラップを降り、
空港のロビーで一息ついた。
小林 「んっ、先ほどのスチュワーデスはんが歩いてくるで」
北小岩 「あっ、手帳を落としてしまったことに気がつきません」
北小岩くんは素早くかけより手帳を拾い上げた。
北小岩 「スチュワーデスさん、これ落ちました」
スチュ
ワーデス
「どうもありがとうございます」
北小岩くんが手渡すと、
スチュワーデスは聖母のような微笑みを残して
去っていった。
北小岩 「先生、大変です!
 今、手帳の中身がちらっと見えてしまいました」
小林 「何が書いてあったんや?」
北小岩 「それがフライトとフライトの間に、
 2Hとか3Hとか書かれていたのです」
小林 「なにっ!
 あの、アリア様のように
 神々しいスチュワーデスはんが、
 フライトの合間合間に
 2回も3回もHを楽しんでおるということか!」

 
 
 
北小岩 「そうに違いありません!
 何だかわたくし、ひじょうに興奮してまいりました」
小林 「気をしっかり持たなあかんで!
 だが、俺もめっちゃ突き上げられてきたわ。
 あ〜!」

国際線スチュワーデスは、中距離フライト後に2日、
長距離フライト後に3日休みをとることが多い。
Hというのは、単にホリデーの略なのだ。
勘違いにもほどがある。
いざという時まったく役に立たないくせに、
こんな時にだけムダに前をふくらませているこの二人には、
女性を救うことなど一生できないであろう。

2001-02-05-MON

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