小林秀雄、あはれといふこと。

その伍・・・「師、曰く」

私には何人か師がいる。
だが、最も印象に残る一言を残してくれたのは、
この男だと思う。
師、曰く・・・。

小沼監督。
あのサッカーの強豪帝京高校を率い、
何度か全国優勝に導いている闘将である。
とんねるずの木梨憲武氏も師の教え子だ。

大学の体育の授業はいくつか選択肢があり、
私はサッカーを選んだ。
大学は特別講師として小沼監督を招いていた。
師はおだやかな微笑みを浮かべグラウンドに現れた。
温和な顔だちの奥底に闘志がみなぎっている。
こういう男こそ勝負に対しストイックなものだ。

授業は試合を中心に行われた。
その日は炎天下。
先に試合を終えた奴らは上半身裸になり、
ホースで頭から水をかぶっていた。
点を取られたらすぐに取り返すという一進一退の攻防。
FWをしていた私は、
右サイドから切り込みゴールを目指した。
目前にDFが迫る。
グニュッ。
足を取られて転がりそうになった。
何とか体勢を立て直すと、
ゴールに思いっきり蹴り込んだ。
ボスッ。
鈍い音を立てボールはキーパーへ。
「くそっ、正面だ」
ボールはそのままキーパーの腹にねじ込まれた。
長いホイッスルが響く。
小沼監督が恐ろしい形相で私の所に駆けてきた。

「君だよ、君!
あそこでウンコ踏んだね!!」

足をとられたのは、ウンコを踏んでしまったからだった。
小沼監督はこれ以上ない微笑みを浮かべ、たたみかける。

「ウンコ、キーパーにべっとりだよ〜ん。
 ウンコウンコ」

1 ウンコ男の図

興奮してわけがわからなくなって来た。

「ウンコだウンコ。君!ウンコ!!」

監督・・・・・・。
俺はウンコじゃありません。

キーパーは寂しげにシャツを脱ぎ、
私は靴を洗いに走った。

パラパラパラッ。
動物図鑑を熟読していた北小岩くんが顔をあげた。

「カンガルーの
赤ちゃんて、
お母さんの袋に入って
気持ちよさそうですね。
私も入りたいです。」

2 カンガルーの図

先生「よく見てみい、北小岩。
  袋に入っているのは、こんな形をしたおもちゃなんや。
  それをダミーでいれてるだけや」

弟子「では赤ちゃんはどこですか?」

先生「お母さんのケツの穴に隠れとる。
   だいたい、あんな目立つところにいたら、
   外敵にやられてしまうやろが」

弟子「カンガルーもよく考えているんですね」

先生「うむ」

持つべきものは師であろう。

1998-07-03- FRI

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