小林 |
「俺も社会人になりたてのころは仰山ヘマこいたもんや」 |
北小岩 |
「先生のような完全主義者でも、
失敗されたことがあるのですか。
後学のためぜひご教示ください!」 |
小林 |
「社会人一年生というのはまだまだヒヨッコや。
水を漏らさぬ心構えで臨んでも、
スキはできてしまうものなんやな。
俺にも油断があった。
会社帰りに買ったハードなエロ本を
駅のベンチで熟読していたら、
肩をとんとん叩くものがおったんや。
人がエロの世界に没入しているのに
失礼なやっちゃと思って見上げると、
取引先の美しい女性が立っていた。
『凄いの持ってるんですね』と突っ込まれ、
思わず「いつもお世話になっております」
というワケのわからないことを口走ってしまったわ」 |
北小岩 |
「社内だけでなく、
帰り道にも社会の厳しい目は光っているのですね」 |
小林 |
「それだけではすまなかった。
次にその会社に行きお偉いさんが出てきた時に、
名刺交換で間違えてファッションヘルスの割引券を
差し出してしまったんや」 |
北小岩 |
「なんと!
それでは機密管理失格の
烙印を押されかねません!!」 |
小林 |
「まあそんな風に俺にもいろいろな失敗があったが、
数々の修羅場をくぐりぬけたおかげで、
社会人が為さねばならぬこと、
為してはならぬことを確実につかんだな」 |
冗談でも立派とはいえない小林先生の新社会人時代。
だが、そんなまぬけな先生がつかんだ
ノウハウとはいったい何だろう。 |
小林 |
「まず、社会人になったからには積極的に
“社会の窓”を広げなければならん。これが基本や」 |
北小岩 |
「と申されますと?」 |
小林 |
「社会との接点を広げるためには、
限界まで社会の窓を広げるこっちゃ。
社会の窓といわれるズボン前方のファスナーは、
あまりに行動範囲が狭すぎる。
これをバッグについているような長いものに付け替え、
おしりの割れ目の上まで上げられるようにするんや」 |
北小岩 |
「なるほど。
確かに社会の窓がおしりの方までつながっていれば、
社会に対する視点も格段にスケールアップいたします」 |
小林 |
「社会人には処世も必要やで。
先輩を立ててことに対処していく。
そのためには二宮金次郎に学ばねばいかん。
大切にしているエロ本や裏ビデオを
カゴに入れて背負い、先輩方にくばるんや。
先輩方もお気に入りのエロ本や裏ビデオの価値は
ようくわかっている。
自分の一番大切なものを惜しげもなく与え、
先輩を立てるその姿にうたれ、
いざという時味方になってくれること請け合いや」 |
|
北小岩 |
「家宝の裏ビデオを差し上げることは
断腸の思いですが、それゆえ絆も深まります」 |
小林 |
「お得意様とのコミュニケーションも忘れてはいかん。
会社の特別室で特上のビデオを上映し、
一緒にマスをかく。
それが21世紀型マスコミュニケーションや」 |
北小岩 |
「飲む、打つ、買うが接待の基本といわれた時代も
ありましたが、
これからはマスコミュニケーションが主流ですね」 |
小林 |
「それから、女子社員から愛されん男は
大きな出世は望めん。
もし会議中に隣の女子社員が
屁をこいてしまった時には
即座に胸一杯屁を吸い込むことや。
その屁を巨大な音を立てて自分のケツから出す。
それで「こいたのは僕です」と
大声で宣言する。
女子社員は放屁の屈辱から逃れ、
君のことを一生贔屓にしてくれるやろう」 |
北小岩 |
「赤い糸ならぬ黄色い糸ではありますが、
職場での恋も芽生えそうです」 |
小林 |
「うむ。
今までは率先してやった方がいいことを述べたが、
してはいけないこともある。
大切なお客様のお茶に陰毛を入れないこと。
これは重要な掟や。
お茶を出す。
黒くて細いものが浮かんでいることに気づく。
お客様は一瞬アメンボが泳いでいるのかと思うが、
まず100%陰毛や。
陰毛は意外な所からやってきて、
魔の手を差し伸べてくる。
陰毛を1本見たら、
確実に30本は潜んでいると思わなあかんで」 |
|
北小岩 |
「私も昔アルバイトをしていて、
重要書類のコピーを任されたのですが、
陰毛を写り込ませたまま
お得意先との会議で配ってしまい
えらく怒られたことがございます。
現物なら容易に取り除けますが、
コピーして配ってしまうと万事休すです」 |
小林 |
「そうやろ。
特に美人社員の方は気をつけんと、
みんなが興奮してしまい
会議が乱れるおそれがあるからな」 |
北小岩 |
「なるほど、勉強になりました」 |
小林 |
「まあ、とにかく新入社員は
すぐには使いもんにならん。
石の上にも三年ということで、
3年間は多少つらいことがあっても
がんばり続けるこっちゃな」 |
北小岩 |
「そうですね。
先生も最初の会社でつつがなく
3年以上過ごされたのですよね?」 |
小林 |
「いっ、いや。
2年8ヶ月で
「やめさせてください!」といってしもた」 |
北小岩 |
「それでは2年8ヶ月で退社したのですか?」 |
小林 |
「それがな、俺がやめようと思ったのは
12月の寒い日やった。
そんでもって社長から
「まだ外は寒いから暖かくなってからにしなさい」
と引き止めていただいて・・・」 |
北小岩 |
「引き止めていただいて?」 |
小林 |
「暖かくなってからやめました」 |
北小岩 |
「ぎゃふん」 |
何だかなさけない小林先生の新社会人生活である。