北小岩 |
「先生、充実した人生とはどんなものですか!」 |
小林 |
「何やいきなり」 |
北小岩 |
「彼女から
『あなたみたいにのらくら生きていたら、
充実した人生は送れないわよ』
といわれてしまったのです」 |
小林 |
「それは一理あるな。
まあ、人生は長いようで短い。
短いようで長い。
かと思えば、
中ぐらいの長さであったりする」 |
北小岩 |
「それではどれくらい長いのだか
よくわかりません」 |
小林 |
「つまり、何か熱中できることに出会えた男は、
日々充実しているので人生が
短く感じられるというこっちゃ。
大切なことは天職を持つということやろな」 |
北小岩 |
「例えば野球を極めようとする
イチロー選手のような人のことですか?」 |
小林 |
「確かにイチローはんもそうやろう。
だが、俺が聞いた話では
もっと天職という言葉が
ぴったりの男がおったな」 |
生まれながらの才能を生かしきったハッピーな男。
彼に関する伝記は残されていない。
あまりに個性的な人生は、
口承でのみ伝えられている。 |
小林 |
「その男はな、名字はよくわかっていないんやが、
『はかる』はんと呼ばれ女性から
愛された職業人や。
スバ抜けた才能は世界で及ぶものがなかった」 |
北小岩 |
「どんな能力をお持ちだったのですか?」 |
小林 |
「はかるはんのちんちんはな、
絶対音感ならぬ『絶対温度』があったんや。
つまり、ちんちんであらゆるものの温度を
正確に測ることができた」 |
北小岩 |
「なんと!」 |
小林 |
「はかるはんが自分の才能に気づいたのは
小学生の時やった。
風邪で熱を出して休んだ時に、
うなされながらちんちんを
自分の股にはさみこんだんや。
すると頭の中に38.924度という数字が浮かんだ。
小数点以下までぴったしやった。
それから風呂のお湯やら冷やっこやらを測ってみたが、
それも正確に計測できた」 |
北小岩 |
「恐るべき才能です。
でも、それが天職とどう関係あるのですか?」 |
小林 |
「学校を卒業すると、
彼は『ちんちん体温計』
(略して『ちん温計』)を
職業にして生きていくことに決めたんや」 |
北小岩 |
「何ですか、『ちんちん体温計』というのは?」 |
小林 |
「風邪をひいて体温を測らねばならぬ女性がおる。
そこにお邪魔してちんちんを大きくした状態で
女性のわきの下に滑り込ませ、
体温を測ってさしあげるんや」 |
|
北小岩 |
「そっ、そんなことに需要があるのですか?」 |
小林 |
「つまりこういうことや。
体温計の感触いうのは冷たすぎる。
ぬくもりが感じられん。
体温計で熱を測り高かったりすると、
自分は病気なんだという
必要以上の思いにかられ体に悪影響を及ぼす。
だが『ちん温計』は違う。
男のぬくもりそのものや。
例えば子供のお腹が痛くなった時、
おかあさんがやさしくさすってあげると
痛みは薄らいでいく。
マザーズタッチいうもんや。
それと同じではかるはんの『ちん温計』は
正確に体温を測れるのみならず、
女性の病気をやわらげる効果もあったらしいんや。
別名ファーザーズ・タッチとも呼ばれていた。
それにあれの太さは、
私は今体温を測ってもらっているんだという
充実感があるからな」 |
北小岩 |
「それほどの方がパブリックには
ほとんど知られていないなんて・・・」 |
小林 |
「日本は既存の尺度を超えた人物を評価できん国や。
でもな、はかるはんはイギリスから注目されとった。
グリニッジ天文台からオファーがあったんや。
グリニッジは標準時の基準地点やから、
正確に何かを測るということには敏感や。
そやからはかるはんを招き、
グリニッジをちんちんによる
世界温度の標準地点にする
グリニッジ標準ちんちんという構想があったんやな。
実現しなかったが」 |
北小岩 |
「まさに偉人ですね。
はかるさんは失敗したことがなかったのですか?」 |
小林 |
「一度だけわざと計測ミスをしたことがある。
はかるはんが若い頃やった。
美しい女性と付き合っていて、
彼はどうしてもその人と結婚したかった。
だが、その女性ははかるはんのことは好きやが、
結婚までは考えていなかった。
二人は基礎体温をもとに避妊していた。
できにくい日だけに愛を交わしていたんやな。
もちろん基礎体温を測るのは、
はかるはんのちんちんでや」 |
北小岩 |
「基礎体温というのは、
朝目が覚めた時に
舌の下に体温計を入れて測るのですよね。
ということは毎朝はかるさんは彼女の舌の下に・・・」 |
小林 |
「そこらへんはプライベートやから、
深く詮索するのはやめとこ。
その日もはかるはんは基礎体温を測った。
彼にはその日ができやすい日だとわかっていた。
だが、それを内緒にして愛を交わし、
そんでもって赤ちゃんができたんやな。
そして二人は結婚した。
通常とは逆パターンの政略的できちゃった婚や」 |
北小岩 |
「やりますね。
ところではかるさんは
『ちん温計』を一生続けられたのですか?」 |
小林 |
「『ちん温計』はあそこを大きくせねば
正確に測れん。
だが、その部分も歳とともに衰えてくるやろ。
若い頃はほとんどすべての女性を
測ることができたんやが、
だんだん測れる女性と測れん女性ができてきた。
だから測ってもらえた女性は魅力的だということで、
大変な名誉ということで株が上がったんや。
『ちん温計』という職業ほど
引き際のはっきりしたものはない。
つまり大きくならなくなった時が
引退する時なんや。
余力を残しての引退はない。
その昔、球界一のモチモノをしているといわれた
王選手でさえ、余力を残して引退してしまった。
それをみても『ちん温計』が
いかに引退時期がはっきりした職業かわかるやろ。
はかるはんの引退の言葉は、
『我がちん生に悔いなし』というもんやった」 |
|
北小岩 |
「見事な生き様です。
天職の素晴らしさを痛感いたしました」 |
小林 |
「だからお前もはかるはんのように天職を見つけ、
日々精進しながら充実した人生を送ることやな」 |
北小岩 |
「貴重なご意見ありがとうございました」 |
すぐに人のことがうらやましくなってしまう小林先生は、