小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

其の五拾弐・・・・天職


北小岩 「先生、充実した人生とはどんなものですか!」
小林 「何やいきなり」
北小岩 「彼女から
 『あなたみたいにのらくら生きていたら、
  充実した人生は送れないわよ』
 といわれてしまったのです」
小林 「それは一理あるな。
 まあ、人生は長いようで短い。
 短いようで長い。
 かと思えば、
 中ぐらいの長さであったりする」
北小岩 「それではどれくらい長いのだか
 よくわかりません」
小林 「つまり、何か熱中できることに出会えた男は、
 日々充実しているので人生が
 短く感じられるというこっちゃ。
 大切なことは天職を持つということやろな」
北小岩 「例えば野球を極めようとする
 イチロー選手のような人のことですか?」
小林 「確かにイチローはんもそうやろう。
 だが、俺が聞いた話では
 もっと天職という言葉が
 ぴったりの男がおったな」
生まれながらの才能を生かしきったハッピーな男。
彼に関する伝記は残されていない。
あまりに個性的な人生は、
口承でのみ伝えられている。
小林 「その男はな、名字はよくわかっていないんやが、
 『はかる』はんと呼ばれ女性から
 愛された職業人や。
 スバ抜けた才能は世界で及ぶものがなかった」
北小岩 「どんな能力をお持ちだったのですか?」
小林 「はかるはんのちんちんはな、
 絶対音感ならぬ『絶対温度』があったんや。
 つまり、ちんちんであらゆるものの温度を
 正確に測ることができた」
北小岩 「なんと!」
小林 「はかるはんが自分の才能に気づいたのは
 小学生の時やった。
 風邪で熱を出して休んだ時に、
 うなされながらちんちんを
 自分の股にはさみこんだんや。
 すると頭の中に38.924度という数字が浮かんだ。
 小数点以下までぴったしやった。
 それから風呂のお湯やら冷やっこやらを測ってみたが、
 それも正確に計測できた」
北小岩 「恐るべき才能です。
 でも、それが天職とどう関係あるのですか?」
小林 「学校を卒業すると、
 彼は『ちんちん体温計』
 (略して『ちん温計』)を
 職業にして生きていくことに決めたんや」
北小岩 「何ですか、『ちんちん体温計』というのは?」
小林 「風邪をひいて体温を測らねばならぬ女性がおる。
 そこにお邪魔してちんちんを大きくした状態で
 女性のわきの下に滑り込ませ、
 体温を測ってさしあげるんや」
北小岩 「そっ、そんなことに需要があるのですか?」
小林 「つまりこういうことや。
 体温計の感触いうのは冷たすぎる。
 ぬくもりが感じられん。
 体温計で熱を測り高かったりすると、
 自分は病気なんだという
 必要以上の思いにかられ体に悪影響を及ぼす。
 だが『ちん温計』は違う。
 男のぬくもりそのものや。
 例えば子供のお腹が痛くなった時、
 おかあさんがやさしくさすってあげると
 痛みは薄らいでいく。
 マザーズタッチいうもんや。
 それと同じではかるはんの『ちん温計』は
 正確に体温を測れるのみならず、
 女性の病気をやわらげる効果もあったらしいんや。
 別名ファーザーズ・タッチとも呼ばれていた。
 それにあれの太さは、
 私は今体温を測ってもらっているんだという
 充実感があるからな」
北小岩 「それほどの方がパブリックには
 ほとんど知られていないなんて・・・」
小林 「日本は既存の尺度を超えた人物を評価できん国や。
 でもな、はかるはんはイギリスから注目されとった。
 グリニッジ天文台からオファーがあったんや。
 グリニッジは標準時の基準地点やから、
 正確に何かを測るということには敏感や。
 そやからはかるはんを招き、
 グリニッジをちんちんによる
 世界温度の標準地点にする
 グリニッジ標準ちんちんという構想があったんやな。
 実現しなかったが」
北小岩 「まさに偉人ですね。
 はかるさんは失敗したことがなかったのですか?」
小林 「一度だけわざと計測ミスをしたことがある。
 はかるはんが若い頃やった。
 美しい女性と付き合っていて、
 彼はどうしてもその人と結婚したかった。
 だが、その女性ははかるはんのことは好きやが、
 結婚までは考えていなかった。
 二人は基礎体温をもとに避妊していた。
 できにくい日だけに愛を交わしていたんやな。
 もちろん基礎体温を測るのは、
 はかるはんのちんちんでや」
北小岩 「基礎体温というのは、
 朝目が覚めた時に
 舌の下に体温計を入れて測るのですよね。
 ということは毎朝はかるさんは彼女の舌の下に・・・」
小林 「そこらへんはプライベートやから、
 深く詮索するのはやめとこ。
 その日もはかるはんは基礎体温を測った。
 彼にはその日ができやすい日だとわかっていた。
 だが、それを内緒にして愛を交わし、
 そんでもって赤ちゃんができたんやな。
 そして二人は結婚した。
 通常とは逆パターンの政略的できちゃった婚や」
北小岩 「やりますね。
 ところではかるさんは
 『ちん温計』を一生続けられたのですか?」
小林 「『ちん温計』はあそこを大きくせねば
 正確に測れん。
 だが、その部分も歳とともに衰えてくるやろ。
 若い頃はほとんどすべての女性を
 測ることができたんやが、
 だんだん測れる女性と測れん女性ができてきた。
 だから測ってもらえた女性は魅力的だということで、
 大変な名誉ということで株が上がったんや。
 『ちん温計』という職業ほど
 引き際のはっきりしたものはない。
 つまり大きくならなくなった時が
 引退する時なんや。
 余力を残しての引退はない。
 その昔、球界一のモチモノをしているといわれた
 王選手でさえ、余力を残して引退してしまった。
 それをみても『ちん温計』が
 いかに引退時期がはっきりした職業かわかるやろ。
 はかるはんの引退の言葉は、
 『我がちん生に悔いなし』というもんやった」
北小岩 「見事な生き様です。
 天職の素晴らしさを痛感いたしました」
小林 「だからお前もはかるはんのように天職を見つけ、
 日々精進しながら充実した人生を送ることやな」
北小岩 「貴重なご意見ありがとうございました」
すぐに人のことがうらやましくなってしまう小林先生は、
はかるさんの話を聞いて自分も
『ちん温計』を職業にしようとしたことがあった。
だが、氷の温度を測ろうとして、
ちんちんが霜焼けになってしまいあきらめたのだった。
天は二物を与えないどころか、
ろくなイチモツもあたえてはいなかった。

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2001-04-29-SUN

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