小林秀雄のあはれといふこと |
しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。 そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、 深く味わい尽くしていく。 それがこの項の主な趣向である。 其の五拾四・・・・観察日記 弟子の北小岩くんが小林先生の書棚を整理していると、 古ぼけた一冊のノートが落ちてきた。 表紙には『観察日記 6年1組 小林秀雄』 と書かれている。 「これは先生が小学生のころにつけていた 日記ではありませんか。 植物や動物を愛して止まない先生のことだから、 その成長を克明に記された観察記録でしょう」 北小岩くんは独り言をつぶやくと、ページをめくった。 「んっ!これはただの観察日記ではありません。 これこそは・・・・」 そう。 それは植物や動物の観察日記などではなく、 小林先生の陰毛の観察日記であった。 『6月2日(晴れ) おちんちんのつけ根のところをよく見ると、 ハムスターのようにうす〜く毛が生えていた。 ゆび先でいじってみるとこそばゆい。 これが友だちがじまんしていたちん毛ってやつなんだ。 ジンジロ毛ともいうらしい。 やった、とうとうぼくも大人の仲間入りだ!』 『7月7日(雨のち晴れ) 今日は七夕。 でも、ぼくにとってはおり姫やひこ星のことよりも、 ちん毛の方がじゅうようだ。 ちん毛は植物の仲間だろうから、 たまにはお日様に当てたほうがよく育つだろう。 家にだれもいないのをみはからって、 えん側でパンツをおろす。 おちんちんも気もちよさそうだ。 だけど、ゆだんしてうとうとしていたら、 いつのまにかおちんちんを蚊にさされていた。 図かんを調べてみると、 血をすうのはメスの蚊だけと書いてあった。 メスはおちんちんが好きなのかな?』 『8月15日(晴れ) 家族旅行で伊豆の海にきています。 でも、ちん毛の観察はおこたりません。 ちん毛のつけ根がかわいていたら、 霧ふきで水をやっています。 おかあさんからなんで海に霧ふきなんてもってきたの? と聞かれたけど、 カニに水をかけてびっくりさせてやるんだ、 といってごまかした。 このことは、ぼくとちん毛ふたりだけのひみつなんだ』 『10月22日(曇り) ちん毛はその後も順調にのびている。 だけど、とてもたいせつなことを思いだした。 前に学校の花だんでひまわりを育てた時のことだ。 タネをたくさん植えて芽がたくさんでてきた。 ぼくはたくさん芽があるのがいいことだと 思っていたけど、 先生は混んだところの元気のない芽を ぬいてしまいなさいといった。 あまりたくさん芽があると、 根が養分をうばいあって 丈夫な苗に育たないからとおしえてくれた。 たしか、間引きといった。 そうだ、ちん毛だって間引きをしなければ りっぱな毛に育てられないはずだ。 あしたの朝みんながおきるまえに、 間引きをしてから学校へいこう!』 『10月23日(雨) 今日は朝6時に起きた。 すぐに間引きにとりかかる。 おかあさんの化粧箱から毛ぬきをとってくる。 おかあさんはこれでまゆ毛なんかを間引きしていたから、 それと同じ要りょうでやればまちがいないだろう。 よ〜くちん毛をみてみると、 たしかにたくさん生えているところと まばらに生えているところがある。 ぼくはこみあっているちん毛を毛ぬきでつかむと、 思いっきり引っぱった。 いっ、痛い! おちんちんが悲鳴をあげた。 おちんちんの奥でかみなりがなったような痛みだ。 だけど、ここでめげては りっぱなちん毛を育てることはできない。 勇気をだして20本も引き抜いた。 少しさみしくなってしまったけど、 これでもうだいじょぶ』 『12月25日(晴れ) きのうにくらべて、急にちん毛が長くなった気がする。 今日はクリスマスだから、 きっとサンタさんがちん毛をのばしてくれたんだ。 小さいころからふしぎだったけど、 どうしてサンタさんは ぼくの欲しいものがわかるのだろう。 サンタさん、すてきなちん毛をありがとう! そうだ、来年はおちんちんを もっと大きくしてくれるようにおねがいしてみよう。 うふふふふ』 『1月18日(曇り) 去年の6月にくらべると ひかくにならないくらいのびたけど、 まだおとうさんにくらべると ちん毛のひよこぐらいなものだ。 どうすればいいのだろう。 そう思っていたら、 社会の時間にボルネオ島の人たちの農業を テレビでみてひらめいた。 ボルネオの人たちは草や林を焼きはらって、 そこにタネを植えて農業をしていた。 焼いた草や木が栄養分になるんだ。 ぼくのちん毛も焼畑農業で育ててみよう。 でも、マッチで火をつけて ちん毛火事になってしまったら大変だ。 そうだ、虫メガネで太陽の光を集めて燃やそう』 『1月19日(晴れ) 冬だけど夏みたいに太陽が照りつけている。 さっそく焼畑農業を実行してみる。 しばらくすると、ちん毛から煙があがってきた。 あっ、あちい〜〜〜。 光が毛をつきぬけて、おちんちんをこがしてしまった。 だめだ、このままではおちんちんが炭になってしまう。 ぼくはこわくなってちん毛焼畑農業を中止した』 『2月10日(雨) 今、ぼくが手にもっているのは おとうさんの柳屋のポマードだ。 そう、ぼくはちん毛にポマードをつけて オールバッグにしようと思ったのだ。 キャロルやクールスのおにいちゃんたちみたいに、 大人になったらビシッとキメたいけど、 今のぼくはちん毛をオールバッグにするのがせいぜいだ。 ぼくはちん毛オールバッグで学校へいった。 ちん毛全開バリバリだぜ!』 『3月23日(大雨) ぼくの人生の中で、今日ほどつらい日はなかった。 ぼくが1年生のときから大好きだった のんちゃんが引っ越してしまったのだ。 いっしょに中学校にいけると思っていたのに。 2年生の時、お医者さんごっこをした仲なのに。 大きくなったら結婚して、 ししのたてがみのようにりっぱになった ぼくのちん毛をみてもらおうと思っていたのに。 もう、何もかもおしまいだ。 ぼくは希望をうしなってしまった。 りっぱなちん毛なんて生えていたって、 のんちゃんに見てもらえないなら意味がない。 ぼくは洗面台からおとうさんの電気かみそりをだすと、 一気にちん毛をそってしまった。 昔のようにつるつるになってしまった おちんちんをみると、 ぼくの目から大粒の涙がこぼれてきて、 おちんちんをぬらした』 日記はそこで終わっていた。 3月23日の日記には、 涙のしみが残り、ページがゆがんでいた。 「先生はこんなにまで、 自分の陰毛をいつくしみ寵愛してきました。 でも、最愛の人が去ってしまうことに傷心し、 自らの手で陰毛を剃ってしまわれたのです。 同時にふたつのかけがいのないものを 失ってしまった先生。 これを悲劇といわずに何と申しましょう。 せっ、先生・・・・うううう・・」 北小岩くんは観察日記を開けたまま嗚咽している。 それからしばらく、 先生の書斎に悲しげな声が響き渡っていた。 |
2001-06-01-FRI
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