小林 |
「それぐらいのことであわてふためくとは、
まだまだ修行が足りんな」 |
北小岩 |
「と申しましても、
その巨大なカゴはずるずるこちらに
向かってくるようなのであります」 |
小林 |
「ほほう、そうか。
だがな、それはカゴやない。天蓋(てんがい)、
つまり深編み笠やで」 |
北小岩 |
「深編み笠といいますと、
虚無僧が被っておりますあれですか。
それにしては、
あまりに大きすぎると思いますが・・・」 |
様々なストレスが跋扈する現代社会。
そのしがらみから逃れ、
虚無僧姿で巡礼する男たちが増えているという。
だが、それはそれとして、巨大な天蓋とは何なのだろう。 |
小林 |
「戦国時代から江戸時代にかけて、
失業してしまった浪人たちから生まれたといわれる
虚無僧や。
リストラ全盛の世の中で、
共感を呼ぶ気持ちは大いにわかる。
だが男たるもの、
そこに立ち止まって
世をはかなんでいては先へ進めん。
お前がみた天蓋は直径三メートル以上あったやろ」 |
北小岩 |
「はい。天蓋のお化けでした」 |
小林 |
「あれはな、虚無僧を超越した男の砦なんや。
虚無僧が悟りを開くと笠が大きくなり、
巨無僧になる。
あの天蓋の中には人が住んでおる」 |
北小岩 |
「へっ?」 |
小林 |
「ここが間違ってはいけないところなんやが、
超越した男は決して無になるわけやない。
素直に、自然に、生きていく術を学ぶんや。
つまりな、男が超越すると
明るく素直でピュアなスケベになる」 |
北小岩 |
「なるほど!でも、
巨無僧とはいったいどんな方なのですか」 |
小林 |
「虚無僧も巨無僧も尺八を吹く。
だが、巨無僧の尺八はスケールが違う。
3メートル以上もある
『アルペンホルン尺八』と呼ばれるものを奏でるんや」 |
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北小岩 |
「それはどんな音色がするのですか?」 |
小林 |
「ふだんは陽気でアルプスな音色を醸し出している。
視聴者の心に爽やかな風が吹く。
だがな、特筆すべきはそんなことではない。
巨無僧はその長い尺八から、
音を立てずに異常に強い息を吹くことができるんや。
もしも巨無僧のそばを、
スカートにノーパンという出で立ちで
婦女子が歩いてみい。
すかさず『アルペンホルン尺八』が
天蓋の下から伸びてきて、
あそこに強い息を吹きかけられてしまうで」 |
北小岩 |
「するとどうなるのですか?」 |
小林 |
「あそこがほら貝のように、
でっかい音で鳴ってしまうんや!」 |
北小岩 |
「なんと!!」 |
小林 |
「その音は山を越えて、隣りの町まで鳴り響く。
今が戦国時代だったら、
何里も離れた味方に
それで合図することができるんや。
巨無僧の尺八テクニックは一流やで。
吹かれた女性もあまりの音の見事さと、
自分の体にそんな可能性が眠っていたことに歓喜し、
かなりのお布施をはずむそうなんや」 |
北小岩 |
「ふう。そのスケールの大きさに、
ため息がもれてきました」
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小林 |
「それだけやない。巨無僧は真に女性の味方や。
女性が暴漢に襲われた時には天蓋から姿を現わし、
果敢に撃退するんや。
巨無僧はヌンチャクを持っておる。
暇なので、天蓋の中でいつも練習しているため
相当の腕前や。
そのヌンチャクは先っぽが、
硬い電気コケシになっている。
もしも、悪者を懲らしめた後に
女性からのご希望があれば、
それで満足までもあたえるという寸法や」 |
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北小岩 |
「サービス精神に富んだ方なのですね」 |
小林 |
「それにな、あの巨大な天蓋はある意味
エロの生態系ができあがっているんや。
天蓋の内側を使いブルーフィルムの上映をしたり、
そのまま公園に移動してデバ亀したり、
夕涼みしながらマスをかいたり。
男にとってはもういうことなしや」 |
北小岩 |
「巨無僧さんは、男の理想を実現しているのですね」 |
小林 |
「まあ、簡単にいえばそういうこっちゃな」
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