小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

其の五拾六・・・・虚無僧


「先生大変です!お寺の前に巨大なカゴが落ちています!」

弟子の北小岩くんが門にぶつかりながら、
血相をかえて駆け込んできた。
庭でおじぎ草に水をやっていた小林先生は、
弟子を一瞥してこういった。
小林 「それぐらいのことであわてふためくとは、
 まだまだ修行が足りんな」
北小岩 「と申しましても、
 その巨大なカゴはずるずるこちらに
 向かってくるようなのであります」
小林 「ほほう、そうか。
 だがな、それはカゴやない。天蓋(てんがい)、
 つまり深編み笠やで」
北小岩 「深編み笠といいますと、
 虚無僧が被っておりますあれですか。
 それにしては、
 あまりに大きすぎると思いますが・・・」
様々なストレスが跋扈する現代社会。
そのしがらみから逃れ、
虚無僧姿で巡礼する男たちが増えているという。
だが、それはそれとして、巨大な天蓋とは何なのだろう。
小林 「戦国時代から江戸時代にかけて、
 失業してしまった浪人たちから生まれたといわれる
 虚無僧や。
 リストラ全盛の世の中で、
 共感を呼ぶ気持ちは大いにわかる。
 だが男たるもの、
 そこに立ち止まって
  世をはかなんでいては先へ進めん。
 お前がみた天蓋は直径三メートル以上あったやろ」
北小岩 「はい。天蓋のお化けでした」
小林 「あれはな、虚無僧を超越した男の砦なんや。
 虚無僧が悟りを開くと笠が大きくなり、
 巨無僧になる。
 あの天蓋の中には人が住んでおる」
北小岩 「へっ?」
小林 「ここが間違ってはいけないところなんやが、
 超越した男は決して無になるわけやない。
 素直に、自然に、生きていく術を学ぶんや。
 つまりな、男が超越すると
 明るく素直でピュアなスケベになる」
北小岩 「なるほど!でも、
 巨無僧とはいったいどんな方なのですか」
小林 「虚無僧も巨無僧も尺八を吹く。
 だが、巨無僧の尺八はスケールが違う。
 3メートル以上もある
 『アルペンホルン尺八』と呼ばれるものを奏でるんや」
北小岩 「それはどんな音色がするのですか?」
小林 「ふだんは陽気でアルプスな音色を醸し出している。
 視聴者の心に爽やかな風が吹く。
 だがな、特筆すべきはそんなことではない。
 巨無僧はその長い尺八から、
 音を立てずに異常に強い息を吹くことができるんや。
 もしも巨無僧のそばを、
 スカートにノーパンという出で立ちで
 婦女子が歩いてみい。
 すかさず『アルペンホルン尺八』が
 天蓋の下から伸びてきて、
 あそこに強い息を吹きかけられてしまうで」
北小岩 「するとどうなるのですか?」
小林 「あそこがほら貝のように、
 でっかい音で鳴ってしまうんや!」
北小岩 「なんと!!」
小林 「その音は山を越えて、隣りの町まで鳴り響く。
 今が戦国時代だったら、
 何里も離れた味方に
 それで合図することができるんや。
 巨無僧の尺八テクニックは一流やで。
 吹かれた女性もあまりの音の見事さと、
 自分の体にそんな可能性が眠っていたことに歓喜し、
 かなりのお布施をはずむそうなんや」
北小岩 「ふう。そのスケールの大きさに、
 ため息がもれてきました」
小林 「それだけやない。巨無僧は真に女性の味方や。
 女性が暴漢に襲われた時には天蓋から姿を現わし、
 果敢に撃退するんや。
 巨無僧はヌンチャクを持っておる。
 暇なので、天蓋の中でいつも練習しているため
 相当の腕前や。
 そのヌンチャクは先っぽが、
 硬い電気コケシになっている。
 もしも、悪者を懲らしめた後に
 女性からのご希望があれば、
 それで満足までもあたえるという寸法や」
北小岩 「サービス精神に富んだ方なのですね」
小林 「それにな、あの巨大な天蓋はある意味
 エロの生態系ができあがっているんや。
 天蓋の内側を使いブルーフィルムの上映をしたり、
 そのまま公園に移動してデバ亀したり、
 夕涼みしながらマスをかいたり。
 男にとってはもういうことなしや」
北小岩 「巨無僧さんは、男の理想を実現しているのですね」
小林 「まあ、簡単にいえばそういうこっちゃな」

巨無僧。
それは現代の自由人。
男に残された最後のパラダイス。
街角で巨無僧を見かけた際には、
ぜひお布施をほどこしてください。
お布施には、特上のエロ本、エロビデオ、
大人のおもちゃなどが喜ばれると聞いております。
そして、もしもあまったエロ本、
エロビデオの上物がありましたら、私にもください。
私だって欲しいんです!

2001-06-29-SUN

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