北小岩 |
「実はわたくしに
文学の話を聞きたいという女性がおりまして、
昨晩飲みに行きました。
女性が泥酔してしまい、
立ち上がる時にふらついたので
手をかそうとしたのですが、
結果的にわたくしの立ち上がりやすい部分を
かしてしまいました」 |
小林 |
「ということは・・・」 |
北小岩 |
「女性が体勢を崩して、
わたくしのムスコをつかんでしまったのです。
ムスコはショックで硬化してしまいました。
それに気づいた女性は般若の形相になり、
『北小岩さんも同じだわ。
どんなにやさしそうに見えても
下半身は別人格なのよ!!』
と言って泣きだしてしまったのです」 |
小林 |
「う〜む。
彼女は以前、男根の性根の悪い男に、
不快な目にあわされたことがあるんやろな。
それでお前は深く傷ついてしまったわけか。
まあ下半身が別人格とっても、
悪い別人格ばかりやないで。
ちょうどこれから、
そのへんの事情に精通した男と
一杯やるところや。
北小岩も行ってみよか」 |
駅前の屋台に行くと、
事情に精通した男はこんにゃくを頬張っていた。
「やあ、先生。おひさしぶりです。
そちらの方が弟子の北小岩さんですか。
初めまして」
差し出された名刺には、
『日本下半身協会会長 太井正(ふといただし)』
と書かれていた。
怪訝な顔で名刺を見る北小岩くんに、
先生が補足した。 |
小林 |
「聞きなれない肩書きだろうが、
太井さんは言うなれば下半身の弁護人や。
なあ、太井さん。
実は北小岩は女性から
『下半身は別人格!』と罵られ、
傷ついているんや。
ぜひ、あの人の話を聞かせてやってくださいな」 |
太井 |
「それは災難でしたね。
そもそも下半身は別人格という言い方は、
下半身に対してとても失礼です。
私の故郷には立派な別人格者がいました。
上半身はどうしようもないチンピラで、
すぐに人を殴ってしまう嫌われ者でしたが、
下半身が別人格だったのです」 |
北小岩 |
「と申しますと?」 |
太井 |
「上半身の蛮行をたしなめるように、
下半身が善行を重ねていたのですね。
暴力沙汰で捕まるたび、
お母さんが警察に身柄を引き取りにいきました。
家に帰ってお母さんに
怒りの矛先を向ける彼の上半身を、
下半身は必死になだめました。
そして、おちんちんで
お母さんの肩をやさしくたたいてあげたのです。
まずはやわらかい状態でほぐし、
だんだんと硬く強く。
この絶妙なタッチは、
こぶしでは絶対に出せません。
お母さんは安らぎの時を過ごしました。
そもそも母というものは、
息子のムスコの成長が気になっても、
物心ついてからは観察することができません。
だけどムスコで肩をたたいてくれれば、
どれくらい成長しているのか、
大きさ、硬さから
容易に推察することができます。
一人前に育っていることを知って、
ほっと胸をなでおろすのです」 |
北小岩 |
「真の意味で親孝行なムスコさんなのですね」 |
太井 |
「また、雪の降る日に上半身がいらだって
壁に穴をあけてしまったことがあるのですが、
その時も下半身は
お母さんが風邪をひかないように、
おちんちんを穴に入れて
すきま風を防ぎました」 |
北小岩 |
「そんな下半身の献身的な態度を見ても、
上半身の性格は
ずっと変わらなかったのですか?」 |
太井 |
「いや、徐々にですが更生されていきました。
下半身が善の世界に導いたのです」 |
北小岩 |
「なるほど。見上げた別人格者ぶりですね」 |
太井 |
「そうですね。
それから下半身は、村孝行に向かいました。
村には川が流れていたのですが、
橋がありませんでした。
そこでムスコは横たわり、橋になりました。
船が通る時は、村の長老が
蔵からとっておきの春画を出してきます。
ムスコは角度をつけ、船は無事通過。
でも、歳月が流れるうちに
だんだんと角度が浅くなっていったのです。
船頭さんもそれを心得ていて、
船をぶつけて橋が傷つかないように、
屹立するまで流れに逆らいオールをこぎました。
『がんばれ!もう一息だ!!』。
船頭さんの手の豆は毎日つぶれました。
健気に起ち上がろうとするおちんちんを、
村の娘たちも下着を脱いでご開帳し応援しました。
村人すべてが、
こよなく下半身橋を愛していたのですね」 |
|
北小岩 |
「つい何年か前まで、
そのように立派な別人格の方が
いらっしゃったなんて・・・」 |
北小岩くんの瞳に、熱いものがこみ上げてきた。 |
小林 |
「そうやな。
下半身は別人格と言う場合、
100%卑下してるわな。
だが、その逆だって十分にありうるわけや。
どんなに上半身がカスな野郎でも、
下半身はとてつもなくやさしい人だって
いるわけやからな。
それを考えもせずに、下半身は別人格!
などとのたまう輩には、
きちんと異議を唱えていかねばならんやろな」 |