『Missing』
 久保田利伸

 
1986年(昭和61年)
 アルバム『SHAKE IT PARADISE』に収録

私が恋にしなかったから、
恋とは言いません。
恋とは言えません。 
  (まぺ)

震える瞳が語りかけてた
出会いがもっと早ければと

今から6年前。
私が配属された部署に彼はいました。
専門分野は違うけれど、
先輩や上司にも物怖じせず自分の考えや
お客様の思いを伝える姿に尊敬。
ほんの少しだけ歳の離れた彼は、
新人の私にとって憧れの存在でした。

ある日、私は上司から
彼とペアを組んでの仕事を任されました。
憧れていた先輩と仕事ができる嬉しさの反面、
先輩の足手まといにならないようにしなくてはという
プレッシャーも大きく、不安だらけでした。
けれど、不思議と気が合ったのです。
お互いの欠点を上手く消し合って、
長所が増幅されるような。
黙っていても阿吽の呼吸で伝わる感覚がありました。
「あんたら、付き合ってるの?」
と周りから聞かれることもしばしば。
でも、その時はお互いに付き合っている相手がいたし、
そのような感情は全くありませんでした。

一年後、彼と恋人が破局したとの噂が流れました。
仕事中もどこか元気がなく、彼らしくないミスも。
私は仕事のフォローをしつつ、
他愛もない話をし、いつもと変わらない態度。

そうやって、気づかないふりをしていました。
彼に何となく私の気持ちが探られていることを。
そして、気づいていました。
私と同期の子が彼に想いを寄せていることを。

今、私が1ミリでも何かを動かしたら、
私の恋人も、気の合う先輩という存在も、
仲の良い同期も失ってしまう。
私の大好きな世界が壊れてしまう‥‥。

先月、その彼の結婚式へ行ってきました。
お相手は私の同期の彼女。
ずっと近くで全てを見守ってきた私は、
淋しいような、嬉しいような、
一言では表せない感情が沸き上がってきました。
恋の感情ではない、この気持ち。
私が恋にしなかったから、恋とは言いません。
恋とは言えません。
けれど、通勤電車の中でこの曲を聴く度、
心の隅っこが少し痛むのです。

来年、私も結婚します。
それまでに、この気持ちを
ゆっくり溶かしていくつもりです。

(まぺ)

うれしいことも、かなしいことも、
「ずっと見ている」という恋も、あるんですよね。
誰にも言わなければ、その恋があったことも、
霧の中に消えてしまいそうな、恋。
それでも(まぺ)さんにとって、それはまぎれもない
「恋」だったんだと思います。

「動かしてはならない」恋というのもつらいですよね。
そういうときって、お互いに恋人がいても
突き進んでしまう恋のかたちだってある。
けれども(まぺ)さんはその道をえらばなかった。
どちらがよかったか、ということではなく、
「そういう恋だった」のかな‥‥。

結婚が決まったとのこと、おめでとうございます!
しあわせになりましょうー!

月曜日に掲載したおたよりもそうでしたが、
はじまらなかった恋は
よくわからない「い〜い思い出」に
なる場合が多いんですね。
そのときはとてもせつないけれど、
すべての人間関係を尊重しようとしたのも
自分なのですから、
「そうしたかった」と納得するしかありませんもの。

そういう自分まるごとを、
結婚する旦那さんは受けとめてくれると思います。
いっしょに生活するのって、たのしい!
おめでとうございます!!

ここに寄せられるメールのなかに
ときどきあるんですよね、
「1ミリも動かしてはいけない恋」
とでもいうべき領域についてのものが。

そういう投稿は、一語一語、
なにかを噛みしめるように、
自分で自分に確認するように、
じっくりと書かれているという印象があります。

なにか、そういうことを
きちんとことばにすることで、
行き場を失って漂っていた思い出が
せめてわずかでも落ち着くのならば、
どうぞ、お役立てください、と思います。

『1ミリも動かせない恋』
という歌を誰か書かないかな。
槇原敬之さんとか、いかがでしょう。

ここに投稿することで、
気持ちがすこし落ち着くとか、
次のステップへ進める気がするとか、
そういう効能があるのだとすれば、
そんなにうれしいことはありません。

武井さんが書いてることに、ぼくも同感。
それはやっぱり「そういう恋」だったんじゃないかと。

なにはともあれ、
来年のご結婚、おめでとうございます。
(まぺ)さんはきっと、
ちゃんと上書きしてくれる彼に出合ったのでしょう。
ラスト3行にそれを感じました。
やわらかな表現だけど、強い信頼があるんだなぁと。

当コンテンツ、ただいま連日更新中です。
あしたは「恋歌くちずさみラジオ」もありますよ。
どうぞおたのしみにー!

 

2013-05-22-WED

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