「お金じゃないよ。大事なのは人だよ」と、田内学さんは何度も語る。
お金への見方が変わる経済教養小説
『きみのお金は誰のため』が大ヒット中の
金融教育家・田内学さんは、
「お金は無力である」という独自の経済観をもとに、
日本の人たちのお金に対する認識を
変えようと頑張っている人です。
もともと米投資銀行のゴールドマン・サックスで
長年働かれていた田内さん自身、
あるときからお金に対する考え方が変わったのだとか。

そもそも、お金ってどういうもの?
日本では投資について、けっこう誤解がある?
経済の話が苦手な人でも、中学生や高校生でも、
みんなにわかりやすいように、
お金と社会の関係について教えていただきました。
1. お金って実は無力なんだよ。
はじめに
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田内
今日はよろしくお願いします。
田内と申します。
「金融教育家」という肩書きで
活動させてもらっています。



少し前に『きみのお金は誰のため』という、
お金をテーマにした小説を書いたんですね。



いま、お金の教育自体はすごく多いんです。
「お金ってすごく大事だよね」ということで、
どう増やすかとか、どう使うかとかが
語られるわけですけど。



ただ、基本的にそういうときに
前提となっている考え方って
「お金ってすごく価値があって、大事だよね」
というものなんです。



だけど僕がまず伝えたいのは
「お金って実は無力なんだよ」
という部分なんですね。



僕自身は前に
ゴールドマン・サックスという、
マネー資本主義のど真ん中の会社で
働いていたんです。



でも、そこでわかったのは
「お金って無力だ」ということで。
お金自体に力は無くて、背後には人々が働いてて、
実は人と人のつながりが経済を支えてる。



そう言うと
「いや、人も大事だけど、
やっぱりお金が大事じゃん」
みたいに思う人もいると思います。
でも、実はそこもそうじゃない。
今日はそのあたりのことについて、
お話しできたらと思っています。
お金についての3つの誤解。
田内
まずは、よくあるお金についての認識を、
3つほどあげてみたんですけど。



その1、お金には価値がある。

その2、お金でいろんな問題を解決できる。

その3、だから将来のために
お金を貯めておくことが大事だ。
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田内
だけど僕はこの、
みんながお金に対して感じている
「万能感」みたいなものが、
けっこう問題だと思っているんですね。



最近、中学や高校でお金の授業を
させてもらうことも多いんです。



そのときよく10代の子たちに
「将来どんな仕事をしたいですか?」
と聞いて、この3つのなかから
選んでもらうんです。



「年収の高い仕事に就く」

「投資で儲ける」

「社会のために働く」
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田内
そうすると中学生だと
「年収の高い仕事」が半分以上。
「投資で儲ける」を選ぶ人もいて、
「社会のために働く」は2割程度。



高校生も似た印象だけど、
よりお金寄りに答える人が多い感じかな。
わりとみんな、働くことに対して
「まず多くのお金」みたいな感じがあるんですね。



でもこれ、海外の若い人たちも
同じかというと、実はそうでもないんです。



日本財団が日本、アメリカ、イギリス、
中国、韓国、インドという
6か国の18歳の人たちにおこなった
意識調査があるんです。
これは学生も社会人も含まれます。



そのなかに
「自分は責任ある社会の一員だと
思いますか?」
という質問が入っているんです。
そこで「そう思う」と答えた人の割合が、
日本はすごく低いんですね。
写真
田内
おそらく、いまの日本では「社会」って、
みんなにとってすごく遠い存在になっている。
そして
「お金さえあれば生きていける」みたいな
感覚の人が多いのかなと。



だけど僕の書いた
『きみのお金は誰のため』の本の帯には
「3つの謎を解いたとき、
世界の見え方が変わった」
という言葉があるんですね。
この3つの謎というのは
「さっき言った3つの認識が違うんだよ」
ということなんですけど。



つまり、
「お金には価値がある」じゃなく、
「お金自体には価値がない」。



「お金でいろんな問題を解決できる」も、
「お金だけで解決できる問題はそもそもない」。



「将来のためにお金を貯める」というのも、
当たり前のように思えるけど、
「実はみんなでお金を貯めても
将来のためにはならない」。
写真
田内
今日はこのあたりについて、
話をできたらと思っています。
田内さんが
お金にギモンを持ったわけ。
田内
‥‥と、その前に、どのように僕が
お金について考えるようになったかを
お伝えさせてください。



子供の頃、僕の家は
そば屋をやっていたんですが、
そのとき感じていた疑問が
いくつかあるんです。



まず、1階のお店でそばを食べる
お客さんはお金を払うけど、
2階の家で食べている僕はタダなわけです。
食べるものは同じなのに、払う払わないがある。
これ、ちょっと不思議だなと。



また、お客さんたちはそばを食べて
「ごちそうさまでした」と言うんですけど、
なかには偉そうな態度の人もいるんですね。
働いているのはこちらなのに、
なぜかお金を払う側が偉い感じがある。



親も実際に
「お金を払ってくれるお客さんは偉いんだ」
と言ってて、僕が学校でクラスの女の子と
喧嘩しちゃったようなときには
「でもあそこはうちのお客さんだから」
と言われたこともあって。



そのときから僕は
「お金って偉いのかな?」
と思っていたんです。



そしてこのおそば屋さん、いろんな事情で
僕が10歳のとき、お店を売って
引っ越さなきゃいけなくなったんです。



そのとき父親が
「やっぱり世の中、お金が大事だ」
と言ったんですね。
「自分は中学までしか行かなかったから、
たくさんお金を稼げる仕事につけなかった。
だからおまえはちゃんと東大に入って、
年収の高い仕事をしろ」という。



そこで僕も
「そうか。世の中ってやっぱり
お金がなきゃダメなんだ」と思って、
頑張って勉強して東大に行って、
アメリカの証券会社で働くようになったんです。



だけど、証券会社でたくさんお金に
関わるようになってわかったのが、
「お金自体には価値がない」ということで。



たぶん父親の言った
「世の中、お金が大事だ」という言葉に、
どこか「本当にそうかな?」という思いも
あったんです。
そして世の中のお金と社会の動きを
たくさん見て、
「やっぱり違うんだ」と思ったんですね。
写真
(つづきます)
2024-11-15-FRI
写真
『きみのお金は誰のため』
─ボスが教えてくれた
「お金の謎」と「社会のしくみ」



田内学 著
(本の帯より)
3つの謎を解いたとき、
世界の見え方が変わった。
「お金自体には価値がない」

「お金で解決できる問題はない」

「みんなでお金を貯めても意味がない」
ある大雨の日、中学2年生の優斗は、
ひょんなことで知り合った
投資銀行勤務の七海とともに、
謎めいた屋敷へと導かれた。
そこに住む、ボスと呼ばれる大富豪から
なぜか「この建物の本当の価値がわかる人に
屋敷をわたす」と告げられ、
その日から2人の「お金の正体」と
「社会のしくみ」について学ぶ日々が始まった。



元ゴールドマン・サックスの金融教育家が描く、
大人にもためになる経済教養青春小説。