糸井 |
インパクが成功するかしないかで言ったら、
どんなに成功しても
成功とは言われないと思うんですよ。 |
荒俣 |
言われないですね。 |
糸井 |
じゃあ失敗してもいいのかと言えば、
失敗はしたくない。
やっぱり単純に、ソフトこそが
インターネットでいちばん大切なものなんだ、
ということが漠然とわかりさえすれば、
それがぼくのしたい仕事なんだろうなあ、
そういうイメージを持っています。 |
荒俣 |
糸井さんの言い方だと
「町人の祭り」というイメージで
みんなが納得すると思うのですが、
ぼくのやりたいところがそこで、
国や大企業よりも
怪しい個人が出したもののほうが
たとえ中がエロであっても勝つ、
というようなところを見せたいんです。 |
糸井 |
無数の「深川丼」とか「お母さんのカレー」とか
そういうものが山ほど出るのが理想ですよね? |
荒俣 |
フランスの三ツ星のシェフを連れてきて
出した料理よりも、その辺のおばさんが
適当に作ったチャーハンがうまい、
というようなことを見せたい。 |
糸井 |
見せたいですね |
荒俣 |
そうなると、インターネット社会にとって
大きな力になると思うんですよね。 |
糸井 |
個人に実は力があるとわかった時に、
ひとつひとつの企業パビリオンのサイトや
地方事業のサイトが「そっちがいいなあ」と
思ってくれたら、その場所は変わりますから。 |
荒俣 |
変わりますし、
ちょっとした一念でそうとうに
いろいろなものを生みつけられます。
今までの万博は各国のパビリオンだったり
各企業のパビリオンだったりして、
三菱電機は三菱電機のパビリオン、
ソニーはソニーのパビリオンだったんだけれども、
21世紀の博覧会は、ネットの性質上、例えば
「糸井重里が作ったソニーのパビリオン」
だったりするんですよ。
ある個人の個性やカラーが、企業を代表する。
そうなると例えば、
ソニーはこういう人間を使う、とか、
こういう個性があるんだ、とかいうことが、
よくわかるようになるんじゃないでしょうか。
ぼくは日本のシステムの中で
法人は税法上も法律上も守られるのに
個人だけは何でもいじめられるというのが
いちばん気にいらなかったんです。
それで法人には、カラーが出ない。
この法人がコーヒーが好きなのか
お茶が好きなのかもわからないし、
ソニーの奴が来た時には
コーヒー出していいのか
お茶出していいのかわからないでしょ?
隣の家にソニーの人が引越してきた時にも、
どんなおじさんなのかは、全くわからない。 |
糸井 |
うん。 |
荒俣 |
これは21世紀的でないんですよ。
つまり・・・まったく個性がない。
パーツがない。
トータルしかないわけで、
つまり、人格しかないのと同じですよ。
ソニーがスケベなのかどうなのかがわからないと、
これからの新しい商品は、出ないと思います。
今まではハードを作っていたから、
個性がわからなくてもよかったのですが、
情報を提供することになると、
その情報を提供する人間が明確にならないと、
まったく意味がないというか・・・。
そこのところをインパクで予行演習できます。
「私はこの企業の人間です」ではなくて、
「この企業は、俺なんだ。俺が企業だ」と
パーツの側にいる奴が全員言えないとだめですよ。
ぼくは、インパクがそういう個人にとっての
訓練のスタートだと思うので、たぶん、
誰がどのサイトを作っているかの顔が見えないと、
まったく意味がないと思います。
それなら、単なる会社案内になります。 |
糸井 |
うん。 |
荒俣 |
今だって、農業が既にそうなってるじゃない?
新潟県から出るコシヒカリじゃもうだめなんです。
「どこ産のなに郡の誰の農家から出た米」
というように言っていまして。
農業は案外進んでいるのかもしれないです。
本来は、例えば「日立」がソフトなんじゃなくて、
「日立のだれだれ君」がソフトなんですよ。 |
糸井 |
農業は、おおぜい食わしていけなくなって
はじめてそういうことが分かったんですよね。 |
荒俣 |
大企業がまとめてリストラやるのは
ある意味では逆方向の可能性ありますよね。
つまり、会社の法人性を保つために
人をつぎつぎと切っているわけだから。
逆に言えば、給料払わなくても
あんたもソニーだというようにしても
いいわけですよね? |
糸井 |
それは、「ほぼ日刊イトイ新聞」でもやっていて、
読者に給料は払わないし、逆に月謝もとらないけど、
でも会員証は配るというのは、
そういうところから考えたんです。 |
荒俣 |
その方向なんじゃないかなという感じがするんです。 |
糸井 |
つまり、前に話した
「おともだち」の関係ですよね。 |
荒俣 |
まさにそうですね。
企業で持っている人間というか。
昔の各マスコミや出版社なんかは
そういう感じだったじゃないですか。
給料はもらってないけど何となく来て
新聞なんかに勝手に書きたい原稿作っている奴が
けっこう、いましたよね? |
糸井 |
いいことですよね。 |
荒俣 |
そういうやつを置いておけるということが、
けっこう企業のカラーになってたりする。
外国の新聞でも
「この記者がいるから、この新聞を買う」
というスタイルになっていますよね。
そういう広がりはとても重要だと思う。
日本の新聞がだめなのは、
結局は会社の新聞だからで。
例えば新聞社員たちはみんな常に
「自分の意見」としてではなくて
「朝日新聞の意見」として書いていますもん。
エンターテイメントと宗教と生活が
渾然一体となってるというのが、
ぼくは農業の核だと思っています。
意外と進んでいるかもしれない農業をテーマに
いろんな催しを開いても、いいと思います。
今まで、あらゆるものを分離しすぎていましたよ。 |
糸井 |
そうだよね。
荒俣さん、おもしろいなあ。
(対談は、今日でおわりです。
このふたりが関わっているインパクは、
ほぼ毎日更新されているので
こちらのページをどうぞご覧下さいね)
|