糸井 |
祖父江さんの流れはよくわかったんだけど、
本を嫌いになって、好きになって、
それからまた賢くない方向に
行きたくなって・・・。
いまは、何を? |
祖父江 |
いまは、できれば
仕事を少なくしたい。 |
糸井 |
要するに、
仕事のことを考えずに、
仕事をやりたいね、と思ったらやるとか。
・・・そうなるよね?
ああ、なるほど。
ぼく、このところ続けて
横尾忠則さんにお会いしているのですが、
祖父江さん、そっくりだね。
おんなじことを言ってる。 |
祖父江 |
へえー。 |
糸井 |
昨日も、まとめてたんだけど、
横尾さんの思想のベースって、
「めんどくさい」ということなんです。
めんどくさいからやらない、もあるし、
めんどくさいからやるよ、もあって。
ベースはぜんぶめんどくさいなんです。
祖父江さんも聞いてたらぜんぶそれで。 |
祖父江 |
そうですよね。 |
糸井 |
もっとすごいのは、
これは12時までに寝たいんだって。
「デザイナーをやっていたら、
そんなこと言ってられないじゃないですか。
それでも、12時までに寝てたんですか?」
って聞いたら、はい、って。
どうやるんですか?って聞いたら・・・。
「簡単にしちゃう」んだって。 |
祖父江 |
ああ・・・そうなのか・・・。 |
糸井 |
ちゃちゃっとやって済むことで済ませれば、
12時までに済んじゃうんだって。 |
祖父江 |
前になんか聞いた話では、
横尾さんがアートディレクターで
実際のレイアウトは
他の人がおこしていく仕事で、横尾さんが
「ここのところに、
英語の立体の文字が欲しいな」
って言って。普通、横尾さんが
そう言ったというと、
「どういう立体がいいかな?」
って、みんな考えるじゃないですか。
そしたら、横尾さんのとなりにいた人が、
青い、写研の見本帳を持っていて、
「これ、立体ですよ」って言ったんだって。
受けたデザイナーの人は、
横尾さんのデザインだから、一生懸命やらなきゃ、
と思っていたんだけど、横尾さんはそれ聞いて、
「ああ、めんどうだからそれでいいよね」
って言ったんだって。 |
糸井 |
(笑)言う言う。 |
祖父江 |
それでびっくりしたって。 |
糸井 |
そんなことだらけ、らしいですよ。
やっぱり、あいだに入ったデザイナーが
直しに直してやったとしても、
そんなには違わないんですよ。
それはそれでありなんだけど、
ほんとのところは、どっちだっていい。
横尾さんは「美意識ない」って
自分で言うんだもん。
美意識なんかじゃない、
そんなケツの穴の小さいことなんて
言ってられない、って。 |
祖父江 |
美意識って、何か、
問題ありますよね。 |
糸井 |
俺もね、それは自分でも、
正直言えば、細々とは言ってたよ。
時々、美意識というよりは
職人技に走ってる奴に
この0.1ミリが、とか言われると、
「そおかあ?それよりも、
寝たほうがいいんじゃない?」って。
でも、横尾さんみたいな人が、
「ぼくは美意識ないから」って。
断言してたもん。
嫌なものを「やりません」と言うのは
やっぱりあるんだって。
だから、美意識がないわけはないんだけど、
そんな程度の美意識なんか、
関係ないっていう・・・。
あきれるなあ・・・。
だから、たぶん、祖父江さんの話なんかも、
そのへんわかっていますよね。
そう思っていますもん。 |
祖父江 |
でも、最近かもしれませんね、
そのへんがわかってきたのは。 |
糸井 |
ああ・・・。
カチカチに計算をし尽くしたものが、
壊れてもよかった経験だとか、
やったほどには意味がなかったとかが。 |
祖父江 |
凝ったりしすぎると、
気持ちが悪いんですよ。
作ったものが。 |
糸井 |
息苦しいですよね? |
祖父江 |
何か、見たくないっていう。
で、ほんと、いいかげんにやって
いい感じにしあがると、
いい感じがするんですよ。
ヘタに細かくやると、
なんか、気持ちが悪いよね。
近親相姦的なものというか、
何ていったらいいかわからないけど。 |
糸井 |
ああ、わかるわかる。
マッドサイエンティストみたいに
なってくるよね?
俺も、コピーとか書く時に、
昔だったら、もっと、
上手に見せようとしていたんですよ。
でも、それはね・・・。
やっぱり、若い時って
野心の尻尾が残っているじゃないですか。
知らないうちにライバルがいるじゃない。
あいつに勝ってやろう、とか、
おどろかせてやろう、だとか。
「こりゃ、かなわん」
とか、言わしたいじゃないですか。 |
祖父江 |
言わしたいよねぇ(笑)。 |
糸井 |
言わしたいですよ。
それがあると、
「これじゃ、まだ、驚かないな」とか、
誰々さんは驚かないな、とかいうのがあると、
あとで、「どうだ」といいたいがために、
ちょっとコクを入れるわけですよね?
そうすると、たくさん食べられないんですよ。
賞をもらったりはするんですけど。
でも、そういうところから
ちょっと離れてみると、
「何だそりゃ」って思うじゃない?
賞?誰が決めてるんだ、って、
そうなっちゃって。
で、いま思うのは、
うまいへたを超えたものですね。 |
祖父江 |
そのへんが、おもしろいですよね。
(つづく)
|