本の装丁のことなんかを
祖父江さんに訊く。

(雑誌『編集会議』の連載対談まるごと版)

第7回 美意識って、何か、問題ありますよ。


 
糸井 祖父江さんの流れはよくわかったんだけど、
本を嫌いになって、好きになって、
それからまた賢くない方向に
行きたくなって・・・。
いまは、何を?
祖父江 いまは、できれば
仕事を少なくしたい。
糸井 要するに、
仕事のことを考えずに、
仕事をやりたいね、と思ったらやるとか。
・・・そうなるよね?
ああ、なるほど。
ぼく、このところ続けて
横尾忠則さんにお会いしているのですが、
祖父江さん、そっくりだね。
おんなじことを言ってる。
祖父江 へえー。
糸井 昨日も、まとめてたんだけど、
横尾さんの思想のベースって、
「めんどくさい」ということなんです。
めんどくさいからやらない、もあるし、
めんどくさいからやるよ、もあって。
ベースはぜんぶめんどくさいなんです。
祖父江さんも聞いてたらぜんぶそれで。
祖父江 そうですよね。
糸井 もっとすごいのは、
これは12時までに寝たいんだって。
「デザイナーをやっていたら、
 そんなこと言ってられないじゃないですか。
 それでも、12時までに寝てたんですか?」
って聞いたら、はい、って。
どうやるんですか?って聞いたら・・・。
「簡単にしちゃう」んだって。
祖父江 ああ・・・そうなのか・・・。
糸井 ちゃちゃっとやって済むことで済ませれば、
12時までに済んじゃうんだって。
祖父江 前になんか聞いた話では、
横尾さんがアートディレクターで
実際のレイアウトは
他の人がおこしていく仕事で、横尾さんが
「ここのところに、
 英語の立体の文字が欲しいな」
って言って。普通、横尾さんが
そう言ったというと、
「どういう立体がいいかな?」
って、みんな考えるじゃないですか。
そしたら、横尾さんのとなりにいた人が、
青い、写研の見本帳を持っていて、
「これ、立体ですよ」って言ったんだって。
受けたデザイナーの人は、
横尾さんのデザインだから、一生懸命やらなきゃ、
と思っていたんだけど、横尾さんはそれ聞いて、
「ああ、めんどうだからそれでいいよね」
って言ったんだって。
糸井 (笑)言う言う。
祖父江 それでびっくりしたって。
糸井 そんなことだらけ、らしいですよ。
やっぱり、あいだに入ったデザイナーが
直しに直してやったとしても、
そんなには違わないんですよ。
それはそれでありなんだけど、
ほんとのところは、どっちだっていい。

横尾さんは「美意識ない」って
自分で言うんだもん。

美意識なんかじゃない、
そんなケツの穴の小さいことなんて
言ってられない、って。
祖父江 美意識って、何か、
問題ありますよね。
糸井 俺もね、それは自分でも、
正直言えば、細々とは言ってたよ。

時々、美意識というよりは
職人技に走ってる奴に
この0.1ミリが、とか言われると、
「そおかあ?それよりも、
 寝たほうがいいんじゃない?」って。
でも、横尾さんみたいな人が、
「ぼくは美意識ないから」って。
断言してたもん。

嫌なものを「やりません」と言うのは
やっぱりあるんだって。
だから、美意識がないわけはないんだけど、
そんな程度の美意識なんか、
関係ないっていう・・・。

あきれるなあ・・・。
だから、たぶん、祖父江さんの話なんかも、
そのへんわかっていますよね。
そう思っていますもん。
祖父江 でも、最近かもしれませんね、
そのへんがわかってきたのは。
糸井 ああ・・・。
カチカチに計算をし尽くしたものが、
壊れてもよかった経験だとか、
やったほどには意味がなかったとかが。
祖父江 凝ったりしすぎると、
気持ちが悪いんですよ。
作ったものが。
糸井 息苦しいですよね?
祖父江 何か、見たくないっていう。
で、ほんと、いいかげんにやって
いい感じにしあがると、
いい感じ
がするんですよ。

ヘタに細かくやると、
なんか、気持ちが悪いよね。
近親相姦的なものというか、
何ていったらいいかわからないけど。
糸井 ああ、わかるわかる。
マッドサイエンティストみたいに
なってくるよね?

俺も、コピーとか書く時に、
昔だったら、もっと、
上手に見せようとしていたんですよ。
でも、それはね・・・。

やっぱり、若い時って
野心の尻尾が残っているじゃないですか。
知らないうちにライバルがいるじゃない。
あいつに勝ってやろう、とか、
おどろかせてやろう、だとか。
「こりゃ、かなわん」
とか、言わしたいじゃないですか。
祖父江 言わしたいよねぇ(笑)。
糸井 言わしたいですよ。
それがあると、
「これじゃ、まだ、驚かないな」とか、
誰々さんは驚かないな、とかいうのがあると、
あとで、「どうだ」といいたいがために、
ちょっとコクを入れるわけですよね?

そうすると、たくさん食べられないんですよ。
賞をもらったりはするんですけど。

でも、そういうところから
ちょっと離れてみると、
「何だそりゃ」って思うじゃない?
賞?誰が決めてるんだ、って、
そうなっちゃって。

で、いま思うのは、
うまいへたを超えたものですね。
祖父江 そのへんが、おもしろいですよね。

(つづく)

2001-03-24-SAT

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