糸井 |
たとえばの話、アメリカのロックビジネスなんかは、
悪いところももちろんあるけど、
ロックのままで済んでないじゃないですか。
いちおう金勘定をするぜ、のやつが、
ちょっと心に「キ」って入ってて。
アップルコンピュータにしても
ハリウッドの映画にしてもある、
そういう金勘定のシステムって、
日本にはまだないんですよ。
おれたち貧乏だもんね、な人たちどうしで、
かつかつだけどなんとかやる、というのは、
いままでもあったけど。
祖父江さんと出会ってから
ほぼ日刊イトイ新聞というのを
ぼくははじめて、あれ、そんなに
事業計画というのはないんですよ。
だけど、いまになってみると、
事業になっていないだけで、
すればできるところには
とっくにいってるんです。
そのつど解散するプロジェクトとか、
そういうことをこれから考える時に
ほんとに祖父江さんのように無計画な人が
あ、生きてますよ、というだけで、
元気になってくる。
今、会いたいのは逆にそういう人たちですね。
企業でシステムを上手に動かしている人たちは、
あちこちでいるから。 |
祖父江 |
何かね、広告とか、こうこうこういうことで
こういう広告になったんだよ、というのが
感じられてしまうと、何か醒めますよね。 |
糸井 |
どっちかといえば、
大きいチームだと、知らないうちに、
まちがいのないものを作ろう、という方向に
動いてしまうんですよね。 |
祖父江 |
間違いのない方向に、
というのにいっちゃうんですよね。 |
糸井 |
で、どういうふうに説明できるか、
というところに、必ずいっちゃうんです。 |
祖父江 |
そるなると、見てても
魅力が減りますよね? |
糸井 |
そうなんです。
だから、ぼくは岡本太郎を思い出して、
岡本さん、芸術ってなんですか、と聞いた時に、
「『これは何だ?』って思うことだ!」
と、これはぼく本人から聞いているんです。
もともと、御茶ノ水の歯科大学の前に
石の橋があるんです。そこに、
ガムがぺったぺた貼ってあって。
小さいお金くらいのものが。
そこにツメで人の顔が描いてあるの。
二コッとしたもの。
でも、岡本太郎さんは、
それを芸術だと言ったの。
「これは何だ?!」と思ったから。 |
祖父江 |
わかりやすいですよね。 |
糸井 |
そう。芸術に、
超寿命の短い芸術があると思えば、
「これは何だ?!」と思ってから
あと2秒か3秒かは、芸術なんですよね。
そのへんは、ぼくの心の支えで。 |
祖父江 |
芸術と愛とは、近い言葉だと思います。 |
糸井 |
近いですよねえ。
それは愛です、って
言えばいいんだよ、と。 |
祖父江 |
そうですよね。
あんまり、こうこうこうが
愛だって言っても、何かね・・・。
結局何かわからないところが、
そのあたりが・・・。 |
糸井 |
たまゆら、ですよね。 |
祖父江 |
ゆらゆらゆら。
そのへんがいいなと思ったの。 |
糸井 |
それは逆に、
まんがとか歌謡曲のほうが
入っていることが多いから。
単純なスポーツだとか、
大衆が沸くようなものに、
そういう要素って見つかったりするんだよ。
だからぼく、永ちゃんから目が離せない。
だってあれ、三社祭を超えてるじゃないですか。
永ちゃんのことを
好きでも嫌いでもないってやつに
コンサート行く?って誘ってみると、
その日から「毎年行きたい」って言うもん。
それはね、何か、根底的に
備えられているものなんだよ。
賢いグループがよりあつまって
むつかしいことを言う、
君はすごいね、って言い合うみたいなのは、
やめにしたいの。
だけど、そういう人が時々いないと
何したらいいかわからなくなるから、
試し算として時々やると。
祖父江さん、いまいちばんたのしいのは、
こどもと遊んでるとき? |
祖父江 |
ええ、あと、
むだな時間ですよね、おもしろいのは。 |
糸井 |
その時期、ずっと長くつづきますよ。
もうこどもおとなに近いけど、
俺、いまでもこどもと遊んでたいもん。
作品としてはいちばん不定形でしょ? |
祖父江 |
わからないですね、なんか。こどもって。 |
糸井 |
(笑)わからないですよね?
すっと通じたり、これは無理だな、と思ったり。 |
祖父江 |
ばかばかしかったり、
何でこんなことを思うのかな、とか、
変なことが、いっぱいあるんですよね。 |
糸井 |
あれ、たぶんですけど、
いちばんわからない時の
自分に会ってたと思うんですよ。
出会いとして。
3歳の時の自分って
会えないじゃないですか。
でも、その自分に会いたいんですよ。
そうか、俺もそうだった、とか。
このようにで生きてたなあ、って、
自己確認しちゃうかもしれない。 |
祖父江 |
そうかもしれない。
こどもと会ってると、
言葉もめちゃくちゃになりますよね。
で、何言ってるかわからない、
めちゃくちゃな言葉のほうが、
割と伝わりやすかったりしますよね。 |
糸井 |
別にそれが仕事に生きるかどうかなんて、
こどもと遊んでいる時には思いませんけど、
でも、事実上生きていきますよね。
伝わる言葉を探す訓練というのは、
こどものいるほうが、増えますから。 |
祖父江 |
まあ、いいかげんなことをやるためには、
あったほうがいいというくらいの
世界ですよね。 |
糸井 |
つっこまれた時に
説き伏せたほうがわかりやすいから
言葉が要るけど、でもそれは父親成分ですよね。
ほんとうは、何かやりたい時って、
これも横尾さんからの借り物なんだけど、
女成分が多いわけで。
何かやりたいって、女性原理じゃない。
産むというのも。
横尾さんと会っていると、
先に考えた人だなあ、と思うことが
とても多いです。
どういう世の中になったほうが
いい、とかいうのって、
祖父江さんは、ありますか?
不自由感みたいなのってある? |
祖父江 |
ええ。もっとだらだらと。
ぼんやりしながら、
おいしいものを食べながら、寝たりして。
そればっかりやってても
たぶん飽きちゃうから、
変わったことをしてみたり。 |
糸井 |
(笑)だいたい想像通りだけど、
本人に聞くとおもしろいなあ。
(おわり)
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