祖父江 |
ちょうどそのあたりの「流行通信」に、
糸井さん、「金魚宣言」って
書かれていませんでしたか? |
糸井 |
書いてました書いてました。
82年とかですね。 |
祖父江 |
ぼくが大学にいって、
本がすごい好きな時期ですよ。 |
糸井 |
頼まれたのがうれしくて書いたような
ものでしたね。金魚宣言は。 |
祖父江 |
ちょっとその頃、賢いことが好きで、
まじめな本を読んでいたんだけど、
やっぱ、あの金魚宣言には
感銘を覚えましたね。 |
糸井 |
その時に、はじめて出会ったんだ。 |
祖父江 |
特に、印象が強かったですね。
「ヘンタイよいこ」とかもあったけど、
金魚宣言のイメージが長くあって、
で、会社作ったのもぐうぜんで、
バブリーな時に、まんがって
部数すごく多いじゃないですか。
だから何でもありになって、
仕事もやりたい放題で、
税金がもったいないから
会社にしたほうがいいよ、と言われて
作ったんですが、その時の会社の名前も
金魚宣言の感じがいいなと思ってて。 |
糸井 |
コズフィッシュ? |
祖父江 |
ビコーズ・フィッシュ、で。 |
糸井 |
あー。
こんなに長く会っていて、
はじめて聞きましたね。
ぼくは「金魚宣言」の原文を
持っていないですよ。
あれ、本にもなっていないし。 |
祖父江 |
もう一回、読んでみたいなあ。 |
糸井 |
たぶん、むつかしい文章ぶって、
あいだあいだにふざけたことを入れていくんですよね。
様式をまもっているふりをしながら、ハズす。 |
祖父江 |
一番ショックだったですね、あの時。 |
糸井 |
非常に酔っ払いな頼まれ方をしたものですけど。 |
祖父江 |
それでああいういい感じのものに。 |
糸井 |
あんなものを描くのに、たぶん20分とかだよ? |
祖父江 |
その20分が今だに。 |
糸井 |
いい仕事って、ぜんぶ10分20分の仕事ですよ。 |
祖父江 |
あああ。なるほど。
そうかもしれないですね。 |
糸井 |
作詞でもそうですよ。
もう、ぜったいそうですね。
ただ、長編は違うけど。
長編の場合には、10分20分を足していくんですね。
そうすると、濃すぎちゃうんで、
疲れながら書いたほうがいいんでしょうけど。
でも向いていないので、
もう長編は書かないですけど。
なんかね、走馬灯のようにまわりましたね。
コズフィッシュは、単純に
もうかりすぎたから会社なんだ。 |
祖父江 |
税金払えないよ、たいへんだよ、と言われて、
そりゃそうだろうな、と思って。
いつまでも
人気のあるわけじゃないだろうし、って。 |
糸井 |
その頃は何人の事務所でした? |
祖父江 |
いまとあんまり変わりないですね。
いま、アシスタントが2人ですけど。 |
糸井 |
じゃあ、計3人?
マネージメント的な仕事は、自分? |
祖父江 |
ええ、手伝ってもらって。
ほとんど自分ですね。
個人と同じです。 |
糸井 |
個人で、クリエイティブの仕事をやるのって、
えらいたいへんですね、今は。
そういうことって、考えたことない?
ああ、ないんだよね、それ。
そうだ俺、知ってるんだった。 |
祖父江 |
ないですね。 |
糸井 |
何とかなるっていうふうに?
経営者としては。 |
祖父江 |
経営ってめんどくさいですよね。
だからなんかこうなっちゃったな、
というだけですね。 |
糸井 |
どんどん、仕事が、ぼくなんかは
種類が違うかもしれないけど・・・。
本のように、少部数でもいいから
仕事がたくさんあるのと、
代理店がどどどって動いて
20人の部隊が競合で5社集まって、
取ったところが何十億、みたいなのと、
両方ありますよね?
で、どどどどって動くほうが
いまどんどんつまらなくなってきて。
ほんとは、その両方が
一緒になったほうがいいんですよね。
たとえばの話、祖父江さんのような人が、
その気持ちのままで、
大きいと思われている仕事をみんなで手分けして、
「じゃあマーケティングの人はこうやって」
とかいうように一緒のプロジェクトやったら、
それぞれの仲間がシナジーみたいに結びついて、
それが理想だと思ったんですよ。 |
祖父江 |
それ、いいですよねえ。 |
糸井 |
かつて、そうなるといいなあと思って
祖父江さんと一回組んで、
プレゼンに負けましたよね? |
祖父江 |
負けましたぁ。 |
糸井 |
負けるんですよ、やっぱり。
あの時にぼくらがやろうと思った実験は
いちおう失敗してきたけれども、
これから先は
ほんとうにそうなると思うんですよね。
この人しかできない、というのが
7人集まって、7人の侍、みたいな。
そうじゃないと、個性出ないですよね。
個性が出なければ
表現の価値なんてないわけで、
その意味でこれからって、
あっちこっちに、いろんなジャンルの
祖父江さんがいる、というのが
ぼくの理想なんですよ。
それをどう結びつけるかの
プロデュースをできる人がいなくて、
それがまずひとつと、あとは
祖父江さんにしても、タダの仕事だけど
やらない、というときには集まれても、
ちゃんとした仕事の時に集まれたことって、
まだ、ないんですよね。
ロックなの、けっこう。 |
祖父江 |
でも、そういうものかもしれませんよね。
(つづく)
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