帰ってきた松本人志まじ頭。

第15回 頂点に行ったあと、人はどうなるのだろうか。



糸井 ある程度、名前が
世の中に出てしまっている人と話すのは、
そうでない人と話すよりも、
ラクな時が、ありますよね。
その理由のひとつは、
お金持ったり有名になると、
妙なコンプレックスが減るからだと思います。

コンプレックスを持ちつづけた状態ではなくて、
「そういうことを考えていた時代」だよねえ、
というところで、話をすることができるでしょ?

無名な人が悪いとは全然思わないけど、
有名になると、少し余裕が出るから、
ラクになるんですよね。

そこで逆に言うと、
力を持ったのに、まだ悪いことをする人って、
やっぱりいるじゃないですか。
その業の深さは、なんだろうなあ。
何かが怖いのかなあ、とか、思います。
末永 ビルゲイツなんて、
絶対に一生使い切れないお金を
持っているんですよね。
でも、彼も今でも
非常に忙しい思いをして働いていますよね。
なんでかなあ?と素朴に思います。
糸井 それも不思議だよねえ。
でも、ふつう、「そうじゃない人」って、
ぼくは、末永さんにしか会ったことないよ。
末永 ぼくはそんなにたいしたことないですけど。
糸井 いや、年齢が。
30代だったら、割と、
「これをもとにして、どうしてああして」
と、マッチョに考える年齢じゃないですか。
松本 ぼくは小学校くらいの時に、兄貴がね、
欽ちゃん全盛の頃ですよ。
兄貴がぽろっと言ったんですよ。
「欽ちゃんって、もう何もしなくても
 一生食べていけんねんて」
「・・・え!
 じゃあ何で、欽ちゃんは仕事してるの?」
そう聞きたくなりますよね。
兄貴は「・・・わからん」って。
そこで「うーん」って、
兄弟でしばらく悩んだんですけど、
ある種ぼく、今は
自分がそれになってるんですよね。
そこは、わかんないんですよ・・・。
糸井 やっぱり、足りなさを感じているのかなあ。
ぼくも「食うため」とかいろいろ言うけど、
ほんとに「食うため」がいちばんだったら、
違うことをしていると思います。

あるいは、例えば、どこか勤めてて
食えるようにしていたほうが、ラクですよね。
こうやって無理なことばかりしたがるのは、
何か、せつないですよね・・・。
末永 達成感を求めているということなのですか?
糸井 それもね、一応そう言うと、
自分では説明したような気になるんですけど、
でもやっぱり、達成感でもないんですよ。
松本 ちょっと何か違いますよね。
それも何%かはありますけど、何か・・・。
糸井 うーん、何だろうなあ・・・。
そういうことを考えると、
俺がよく思い出すのは、
野球では川上哲治のことなんですよ。

みんな「嫌なやつだ」ぐらいに思っていて、
あんまりあの人については語らないけど、
日本一になって、その都度一回ずつ
最高の気分でシーズン終わってるはずなのよ。
なのに、それを9年連続でやった監督なわけで、
頂点に行った後って、どうやって
動機を作ってやっていったのかなあ・・・。

そういう意味で、お笑いで言うと、
欽ちゃんは、どうなんだろう?
松本 ・・・うーん、微妙ですねえ。
でもまあ微妙っていうことは、
正解やったのかもしれませんけど。
末永 そんなにはずれてはないっていう?
松本 うん。
糸井 あの歳になっても、
手塚治虫さんとかと同じように、
若い人に負けたくないような気持ちが、
たぶん、まだあるんですよね。
なければ、うまく年を取ったはずですよね。

明らかにお客さんの受けを狙って
ぜんぶすべったことがあって・・・。
すべりにすべってることを、
本人が感じないはずないわけです。
ぼくは、それをテレビで見てるの、
きつかったんですよね。
だからほんとに引退してくれていたら、
最高だったんでしょうね、ある意味で。

でも、筋肉が落ちてきてるのに
腕相撲には出たいみたいな気持ちを感じた。
お笑いって、一見、
筋肉の問題ではないように思えそうから、
けっこう本気で「闘える」と
思えてしまうのだろうなあ・・・。
でも、それにしては欽ちゃんの世界には、
さっき言ったような「移民」とか
「新しい血」が入っていなかったですね。

あの欽ちゃんが、本当に野放図に
外人を入れているというか、
外の世界の人をずっとつきあいつづけていれば、
筋肉は落ちなかったんじゃないかと思う・・・。
そういうのって、あるよね?
松本 うん。
糸井 ある流れのところで安定していたら、
外の人と交わりつづけるのは、無理ですよね。
末永 権威になっちゃう。
競争と権威って、対立概念なんです。
同じ平等な立場で競争して決めるのか、
偉い人がいてその人が決めるのか。
それは、ふたつのうちひとつしか選べない。
糸井 競争の対立概念は権威かー・・・。
そうだよね。

でも、思えば、欽ちゃんぐらいまで
行ったひとって、お笑いでは
その後は、あんまりいないんですよ。

日本そのものが豊かじゃなかったから
すごい高視聴率だったこともあるけど、
やっぱり、欽ちゃんって、すごかったよ。
ピンクレディよりは欽ちゃんの方がイったし。
萩本さんていうのは、ものすごかった・・・。

若い子たちはたいしたことない、くらいに
思うかもしれないけど、絶頂期の欽ちゃんは、
ほんとにすごかったですよね?
松本 うん。すごかったです。
糸井 ドリフは違うでしょ。
欽ちゃんですよね・・・
新しかったし。


(つづく)

2001-01-19-FRI

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