糸井 |
ある程度、名前が
世の中に出てしまっている人と話すのは、
そうでない人と話すよりも、
ラクな時が、ありますよね。
その理由のひとつは、
お金持ったり有名になると、
妙なコンプレックスが減るからだと思います。
コンプレックスを持ちつづけた状態ではなくて、
「そういうことを考えていた時代」だよねえ、
というところで、話をすることができるでしょ?
無名な人が悪いとは全然思わないけど、
有名になると、少し余裕が出るから、
ラクになるんですよね。
そこで逆に言うと、
力を持ったのに、まだ悪いことをする人って、
やっぱりいるじゃないですか。
その業の深さは、なんだろうなあ。
何かが怖いのかなあ、とか、思います。 |
末永 |
ビルゲイツなんて、
絶対に一生使い切れないお金を
持っているんですよね。
でも、彼も今でも
非常に忙しい思いをして働いていますよね。
なんでかなあ?と素朴に思います。 |
糸井 |
それも不思議だよねえ。
でも、ふつう、「そうじゃない人」って、
ぼくは、末永さんにしか会ったことないよ。 |
末永 |
ぼくはそんなにたいしたことないですけど。 |
糸井 |
いや、年齢が。
30代だったら、割と、
「これをもとにして、どうしてああして」
と、マッチョに考える年齢じゃないですか。 |
松本 |
ぼくは小学校くらいの時に、兄貴がね、
欽ちゃん全盛の頃ですよ。
兄貴がぽろっと言ったんですよ。
「欽ちゃんって、もう何もしなくても
一生食べていけんねんて」
「・・・え!
じゃあ何で、欽ちゃんは仕事してるの?」
そう聞きたくなりますよね。
兄貴は「・・・わからん」って。
そこで「うーん」って、
兄弟でしばらく悩んだんですけど、
ある種ぼく、今は
自分がそれになってるんですよね。
そこは、わかんないんですよ・・・。 |
糸井 |
やっぱり、足りなさを感じているのかなあ。
ぼくも「食うため」とかいろいろ言うけど、
ほんとに「食うため」がいちばんだったら、
違うことをしていると思います。
あるいは、例えば、どこか勤めてて
食えるようにしていたほうが、ラクですよね。
こうやって無理なことばかりしたがるのは、
何か、せつないですよね・・・。 |
末永 |
達成感を求めているということなのですか? |
糸井 |
それもね、一応そう言うと、
自分では説明したような気になるんですけど、
でもやっぱり、達成感でもないんですよ。 |
松本 |
ちょっと何か違いますよね。
それも何%かはありますけど、何か・・・。 |
糸井 |
うーん、何だろうなあ・・・。
そういうことを考えると、
俺がよく思い出すのは、
野球では川上哲治のことなんですよ。
みんな「嫌なやつだ」ぐらいに思っていて、
あんまりあの人については語らないけど、
日本一になって、その都度一回ずつ
最高の気分でシーズン終わってるはずなのよ。
なのに、それを9年連続でやった監督なわけで、
頂点に行った後って、どうやって
動機を作ってやっていったのかなあ・・・。
そういう意味で、お笑いで言うと、
欽ちゃんは、どうなんだろう? |
松本 |
・・・うーん、微妙ですねえ。
でもまあ微妙っていうことは、
正解やったのかもしれませんけど。 |
末永 |
そんなにはずれてはないっていう? |
松本 |
うん。 |
糸井 |
あの歳になっても、
手塚治虫さんとかと同じように、
若い人に負けたくないような気持ちが、
たぶん、まだあるんですよね。
なければ、うまく年を取ったはずですよね。
明らかにお客さんの受けを狙って
ぜんぶすべったことがあって・・・。
すべりにすべってることを、
本人が感じないはずないわけです。
ぼくは、それをテレビで見てるの、
きつかったんですよね。
だからほんとに引退してくれていたら、
最高だったんでしょうね、ある意味で。
でも、筋肉が落ちてきてるのに
腕相撲には出たいみたいな気持ちを感じた。
お笑いって、一見、
筋肉の問題ではないように思えそうから、
けっこう本気で「闘える」と
思えてしまうのだろうなあ・・・。
でも、それにしては欽ちゃんの世界には、
さっき言ったような「移民」とか
「新しい血」が入っていなかったですね。
あの欽ちゃんが、本当に野放図に
外人を入れているというか、
外の世界の人をずっとつきあいつづけていれば、
筋肉は落ちなかったんじゃないかと思う・・・。
そういうのって、あるよね? |
松本 |
うん。 |
糸井 |
ある流れのところで安定していたら、
外の人と交わりつづけるのは、無理ですよね。 |
末永 |
権威になっちゃう。
競争と権威って、対立概念なんです。
同じ平等な立場で競争して決めるのか、
偉い人がいてその人が決めるのか。
それは、ふたつのうちひとつしか選べない。 |
糸井 |
競争の対立概念は権威かー・・・。
そうだよね。
でも、思えば、欽ちゃんぐらいまで
行ったひとって、お笑いでは
その後は、あんまりいないんですよ。
日本そのものが豊かじゃなかったから
すごい高視聴率だったこともあるけど、
やっぱり、欽ちゃんって、すごかったよ。
ピンクレディよりは欽ちゃんの方がイったし。
萩本さんていうのは、ものすごかった・・・。
若い子たちはたいしたことない、くらいに
思うかもしれないけど、絶頂期の欽ちゃんは、
ほんとにすごかったですよね? |
松本 |
うん。すごかったです。 |
糸井 |
ドリフは違うでしょ。
欽ちゃんですよね・・・
新しかったし。
(つづく)
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