糸井 |
競馬場で自分が
人ごみに紛れているのはOKなのに、
その人たちの前で演説するのは、
「ちょっと、いいです」
と言うような、そういうことをくりかえして
だいたいの人は一生が終わってしまうんです。
そこを、欽ちゃんは、
演説することができたかもしれないと思う。
特に、前川清を使っていた時期なんて、
完全に「イっていた」ですよね。
そこを、たけしさんも、よけましたよね?
映画というものを作る方向に行きましたし。
よけていなかった人って、いないです。
テレビ局でテレビを作っている人は、
それを本気で考えたら、番組を作る時に、
もっと答えを出しやすいでしょうね。
大勢で作ることができるわけだから。
それを俺たちみたいな
職人で生きてきたようなタイプが
話題にしているのは、はじめから
無理なようなことだと思うんですけど、
欽ちゃんをなめちゃいけないっていうか。 |
松本 |
もっと語るべきですよね。 |
糸井 |
平凡なおじさんおばさんの笑いだと
思われてるけど・・・。 |
松本 |
違いますよね。 |
糸井 |
それじゃあ、あんなにならなかった。
コント55号が最初にコントやってるのを見てて、
俺、キチガイだと思ったもん。 |
松本 |
(笑) |
糸井 |
松っちゃんも知らないですよね。
デビューとかは。 |
松本 |
「なんでそーなるのっ」って言ってるのが
ぼくの小学校低学年くらいでした。 |
糸井 |
でも、変な気持ち悪さを感じませんでした? |
松本 |
ぼくの場合、関西圏でしょ?
だからちょっと複雑なんですよ。
それを見ながら吉本新喜劇もあったり、
松竹もあったり、いろいろな情報が
ガーッとあったから、どこかで
「東京の笑いなんて・・・」
という気持ちも、あったんですよね。 |
糸井 |
フィルターかかってますよね。
でもぼくは、他に
ああいうものを知らないですよ。
若い子に言っても、コント55号が
キチガイに見えた時代を知らないから、
この感覚が、通じないんですよ。
おだやかでほのぼのの人だと見なされている。
そこは誰か、ぼくらぐらいの世代の人が
ちゃんと語らないとダメだと思うくらいです。
いまだかつて、いなかったから。 |
松本 |
割と、何か、その問題は
アンタッチャブルみたいに
なっちゃってますよね。 |
糸井 |
うん。
アンタッチャブルだよ。
モノマネをする以外では
誰も語ってないですから。
小堺さんのまねはおもしろいけど、
そうではないんですよね。
手塚治虫さんがそうで、
どんな若い作家が出たとしても、
例えば『がきデカ』が出た時期にも
「これで対抗だ!」というように
ぜんぶ自分の作品を、
当時のヒット作にぶつけたんですよ。
手塚さんは、性格としては、
「悪い奴」としか
言いようがないくらいのすごい勝負師で、
その時代時代のマンガをぜんぶ描いてますよね。
これも、キチガイだと思うけどなあ。
あそこでも、いちおうは
文部省公認みたいにされているから、
手塚治虫さんという人は、
かなり誤解されているけど、
ほんとうはキチガイですから。 |
松本 |
善人のように映ってますけど、
違うんですよね。 |
糸井 |
善人じゃないところを語ると、確かに、
やっぱり、かっこ悪く見えちゃうんです。
「志半ばで負けた人が、すごい」
という先入観がみんなにあるから、
志半ばの人として見るとかっこいいけど、
実はほんとうに必死で・・・。
そこいらへんを、もうちょっと、
これからは、関脇のかっこよさよりも、
横綱のほんとうのすごさを語るほうが、
大事だよなあ、と思います。 |
末永 |
ほんとにすごいのは、横綱側ですよね。 |
松本 |
うん。 |
糸井 |
「他に誰がいるの」っていうと、
各ジャンルごとに絶対いるはずですよね。
でも、川上哲治が好きと言うと、
なんか、かっこわるいんですよね。 |
末永 |
つまらないんですよ。 |
糸井 |
あ「つまらない」というのは
横綱の要素として、あるよね。 |
末永 |
長嶋のほうがおもしろいじゃないですか。 |
糸井 |
ある意味ではぼくも、
ダウンタウンについて、川上哲治を語るように
語らなければいけないのに、
そうしていないところがあるかもなあ。
まだ理解していないという
どうしようもない人たちがいるから、
つい、そっちに目が行っちゃうけれども、
そうじゃないのかもしれないですよね。
まだ理解していない人は
ある意味、滅びゆく人として扱わないでおいて、
これこそが視聴率100%の可能性があるんだ、
という目でダウンタウンを見たほうが、
ほんとうにおもしろいのかもしれないです。
松本さん、
古典的なお笑いのしていることを、
刑務所で漫才をやりはじめるというコントで
やったことがあるんですよ。
あれは、本人は勉強したはずないんですよ。
なのに自分で台本書いてやってるんだから、
おもしろいですよね。
「そんなくらい、俺もやってないけど知ってるよ」
ということでしょう? あの感じは、うれしかった。
ぼく、若いころに、
自分の仕事でああいうことをやったから。
「文章をちゃんと書けない人」と思われていて、
「やっぱり、ああいうのが出てくるんだよね」
と言われて、かなり腹が立っていた時に、
無理矢理、おカタい広告を引き受けました。
それで賞を取るって決めていたんです。
「あれは、パッと出じゃないかもしれない」
と思わせたくてそういうことやったんですけど、
それに近いものがありますよね。
あんなの、簡単にできちゃったんでしょ? |
松本 |
はい。 |
糸井 |
(笑)いいよねえ。
あれ、もっと驚いてほしいのに、
みんなは、ごく自然に受けちゃうんだよね。 |
松本 |
ぼく、基本的には、お笑いオタクですからね。
小学校1〜2年くらいで
落語会観にいってたぐらいですから。 |
末永 |
やっぱり、圧倒的なベースが必要なんですね。 |
糸井 |
そりゃ、オタクじゃないと、
今の情報戦争を勝ち抜けないでしょう。
瞬間風速なら、山田花子でオッケーですけど。
(つづきます)
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