帰ってきた松本人志まじ頭。

第17回 頂点にいるキチガイのすごさは、何だろう。



糸井 競馬場で自分が
人ごみに紛れているのはOKなのに、
その人たちの前で演説するのは、
「ちょっと、いいです」
と言うような、そういうことをくりかえして
だいたいの人は一生が終わってしまうんです。

そこを、欽ちゃんは、
演説することができたかもしれないと思う。
特に、前川清を使っていた時期なんて、
完全に「イっていた」ですよね。
そこを、たけしさんも、よけましたよね?
映画というものを作る方向に行きましたし。
よけていなかった人って、いないです。

テレビ局でテレビを作っている人は、
それを本気で考えたら、番組を作る時に、
もっと答えを出しやすいでしょうね。
大勢で作ることができるわけだから。

それを俺たちみたいな
職人で生きてきたようなタイプが
話題にしているのは、はじめから
無理なようなことだと思うんですけど、
欽ちゃんをなめちゃいけないっていうか。
松本 もっと語るべきですよね。
糸井 平凡なおじさんおばさんの笑いだと
思われてるけど・・・。
松本 違いますよね。
糸井 それじゃあ、あんなにならなかった。
コント55号が最初にコントやってるのを見てて、
俺、キチガイだと思ったもん。
松本 (笑)
糸井 松っちゃんも知らないですよね。
デビューとかは。
松本 「なんでそーなるのっ」って言ってるのが
ぼくの小学校低学年くらいでした。
糸井 でも、変な気持ち悪さを感じませんでした?
松本 ぼくの場合、関西圏でしょ?
だからちょっと複雑なんですよ。
それを見ながら吉本新喜劇もあったり、
松竹もあったり、いろいろな情報が
ガーッとあったから、どこかで
「東京の笑いなんて・・・」
という気持ちも、あったんですよね。
糸井 フィルターかかってますよね。
でもぼくは、他に
ああいうものを知らないですよ。

若い子に言っても、コント55号が
キチガイに見えた時代を知らないから、
この感覚が、通じないんですよ。
おだやかでほのぼのの人だと見なされている。

そこは誰か、ぼくらぐらいの世代の人が
ちゃんと語らないとダメだと思うくらいです。
いまだかつて、いなかったから。
松本 割と、何か、その問題は
アンタッチャブルみたいに
なっちゃってますよね。
糸井 うん。
アンタッチャブルだよ。
モノマネをする以外では
誰も語ってないですから。
小堺さんのまねはおもしろいけど、
そうではないんですよね。

手塚治虫さんがそうで、
どんな若い作家が出たとしても、
例えば『がきデカ』が出た時期にも
「これで対抗だ!」というように
ぜんぶ自分の作品を、
当時のヒット作にぶつけたんですよ。

手塚さんは、性格としては、
「悪い奴」としか
言いようがないくらいのすごい勝負師で、
その時代時代のマンガをぜんぶ描いてますよね。
これも、キチガイだと思うけどなあ。

あそこでも、いちおうは
文部省公認みたいにされているから、
手塚治虫さんという人は、
かなり誤解されているけど、
ほんとうはキチガイですから。
松本 善人のように映ってますけど、
違うんですよね。
糸井 善人じゃないところを語ると、確かに、
やっぱり、かっこ悪く見えちゃうんです。

「志半ばで負けた人が、すごい」
という先入観がみんなにあるから、
志半ばの人として見るとかっこいいけど、
実はほんとうに必死で・・・。

そこいらへんを、もうちょっと、
これからは、関脇のかっこよさよりも、
横綱のほんとうのすごさを語るほうが、
大事だよなあ、と思います。
末永 ほんとにすごいのは、横綱側ですよね。
松本 うん。
糸井 「他に誰がいるの」っていうと、
各ジャンルごとに絶対いるはずですよね。
でも、川上哲治が好きと言うと、
なんか、かっこわるいんですよね。
末永 つまらないんですよ。
糸井 あ「つまらない」というのは
横綱の要素として、あるよね。
末永 長嶋のほうがおもしろいじゃないですか。
糸井 ある意味ではぼくも、
ダウンタウンについて、川上哲治を語るように
語らなければいけないのに、
そうしていないところがあるかもなあ。

まだ理解していないという
どうしようもない人たちがいるから、
つい、そっちに目が行っちゃうけれども、
そうじゃないのかもしれないですよね。

まだ理解していない人は
ある意味、滅びゆく人として扱わないでおいて、
これこそが視聴率100%の可能性があるんだ、
という目でダウンタウンを見たほうが、
ほんとうにおもしろいのかもしれないです。

松本さん、
古典的なお笑いのしていることを、
刑務所で漫才をやりはじめるというコントで
やったことがあるんですよ。
あれは、本人は勉強したはずないんですよ。
なのに自分で台本書いてやってるんだから、
おもしろいですよね。

「そんなくらい、俺もやってないけど知ってるよ」
ということでしょう? あの感じは、うれしかった。

ぼく、若いころに、
自分の仕事でああいうことをやったから。
「文章をちゃんと書けない人」と思われていて、
「やっぱり、ああいうのが出てくるんだよね」
と言われて、かなり腹が立っていた時に、
無理矢理、おカタい広告を引き受けました。
それで賞を取るって決めていたんです。

「あれは、パッと出じゃないかもしれない」
と思わせたくてそういうことやったんですけど、
それに近いものがありますよね。
あんなの、簡単にできちゃったんでしょ?
松本 はい。
糸井 (笑)いいよねえ。
あれ、もっと驚いてほしいのに、
みんなは、ごく自然に受けちゃうんだよね。
松本 ぼく、基本的には、お笑いオタクですからね。
小学校1〜2年くらいで
落語会観にいってたぐらいですから。
末永 やっぱり、圧倒的なベースが必要なんですね。
糸井 そりゃ、オタクじゃないと、
今の情報戦争を勝ち抜けないでしょう。
瞬間風速なら、山田花子でオッケーですけど。


(つづきます)

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2001-01-21-SUN

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